002 Say you trust me.
それからあとは
 
本文中SAMPLE


(前略)


 今までにも抱き付いた事も、抱き締めた事もある。劣情を隠し酔った振りで、もしくは誰それに振られたと言い訳をしながら抱き締めた。
 土方は勿論、自分すら騙すように思いを深く秘めていた間は、そうして時々触るだけで我慢も出来たのに。
 思いを告げ、感情を殺さずに済むと思えば、次が欲しくなる。
 俺はずるいか? まだ早い?
 近藤の指先が、土方の唇を辿る。
 土方は、片手に瞼を塞がれ目を閉じたまま、口を開いた。と、そうっと指先が入り込み歯に当たる。恐る恐る差し出した舌先に触れた近藤の手がぴくん、と揺れた。その反応が面白くなり、歯を立てぬよう窄めた口で、土方は潜り込んだ二本の指を吸う。
 これだけの事で、背筋がぞくぞくする。
 目が見えずにいる分、回された腕や指先に神経が集中する。近藤の、匂い。吐息の湿度、背後の熱。
「トシ」
 低く耳元で囁く近藤の声に、また土方の体温が上がる。
 土方は口に差し入れられた腕を両手で掴むと、見えぬまま、付けた唾液を拭うように舌を伸ばし、指先を舐め上げた。そうしてその手に愛しそうな頬擦りをする。
 ごくり、と背後の近藤が喉を鳴らした。その音に我に返ったように土方は身を縮ませる。
「トシ……」
 目ェ閉じてろよ。呟きに更に硬く身を竦ませた土方を横向きにずらし、近藤が口を吸った。
 伸ばした舌で土方の逃げる舌を誘い、吸い上げ、口内を犯す。煙草臭いその口付けにも不思議と嫌悪はなかった。
 時折震え、目をぎゅっと閉じたまま顔を背けようとする土方の動きに焦れ、近藤は角度を変え啄みながら、押し付けた唇から舌を何度も差し入れる。
 長い時をかけて近藤の顔が離れると、土方は、はぁっと熱い吐息を零した。
 口許を伝う唾液を、近藤に指の背で拭われ、ようよう土方が薄目を開ける。
 とろん、と正気を無くした潤んだ瞳で近藤を見上げると、土方は再び瞳を伏せ、近藤の片腕を大事に両手で持ち、自分の胸にペタリとその手を押し付けた。
「……凄ェの。俺の心臓」




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