005 オオオニバスで水上スキー 
キンコン
 
本文中SAMPLE


(前略)


 その夜遅く、ギシ、と近藤の部屋の畳が鳴った。
 眠れないまま土方は暗闇で天井をぼんやりと見つめる。
 寝返りを打つような隣室の衣擦れの音に意識をやると、やがてくぐもった吐息が聞こえた。
 あ、と土方が思う。
 襖を一枚隔てた向こう側で、近藤が、一人で。
 考えすぎだ、欲求不満もいいとこだ。そう理性で否定はするが直感に土方の喉が鳴った。
 小さな物音に神経を集中する。微かな響きに耳を凝らす。近藤の姿を想像する己の浅ましさにうんざりしながら、体が熱くなる。
 今まであの人はいつどうやって済ませていたんだろう。気配がした事なんかなかった。きっと、厠かなんかでしてるんだと思っていた。
 近藤の手が、どんな風に自分を慰めているのか妄想する。
 下着弛めて手ェ突っ込んで握って扱いて、なァ近藤さん、アンタ今何考えてんの? 誰にどんな事してんの?
 俺ん事ならいいのに。俺からヤダって、暫くやめたいって言っといてなんだけど、アンタが一人でする時に俺ん事考えてくれてんならいいのに。俺にいやらしい事いっぱいしたいって、そんな時でもアンタが俺の事思ってんならいいのに。
 俺がしたい。俺の手とか口とか使ってアレを昂ぶらせたい。俺で気持ちよくなるアンタが「トシ」って呼んでくれたら俺は、もうそれだけでイきそうでアンタにもっと気持ちよくなって欲しいのに俺の事も触って欲しくて仕方がなくて、あァもう、抱いてくれよ。
 俺と繋がって。アンタに縋らせて。
 頭ん中がぐちゃぐちゃでこーゆー状態が馬鹿になるって事で、マズイ事に馬鹿でももういいとか、馬鹿の何が悪いんだって開き直ってアンタと抱き合いたくてこれは最悪に馬鹿な状態だ。
 土方はうつ伏せ、枕に顔を埋めると、硬く立ち上がった自分のものを握った。
 近藤さん。
 抱き合ってキスして圧し掛かられて、アンタの、熱くてどこもかしこも固い筋肉に掴まれて、身動きできない俺の体をこじ開けるように広げられて、嬲られ舐められてアンタが欲しいって。
 散々焦らされて終わんなくってイきたくて、恥ずかしいって逃げ出したくなりながらアンタにしがみ付いてねだれば、ようやくアンタが俺の中に入って。緩く掻き回されただけで俺の意識なんざ全部飛んでっちまいそうで、それが恐くて俺は。
 近藤さん。アンタが思ってるよりずっと俺は臆病で、卑怯で、弱虫で、そんで俺が思ってたより俺はアンタにイカレてるみたいだ。
 アンタの指が絡んでるって、アンタがこんなはしたない俺を見てるって想像して、俺はもうそれだけで。
 襖の向こうから湿った息遣いに混じる小さな声が聞こえる。
「……っ」
 今あの襖が開いたらどうしよう。俺がこんな風にアンタの事想像して体火照らせて一人で慰めてるとこ見られたらどうしよう。「俺にどんな事されたいの」って「俺の事考えてこんなになってんのかよ」ってアンタがあの、夜、二人になった時限定の、低いかすれた声で言ったりしたらどうしよう。
 先走りに濡れる自身を、丸まって握りながら土方は必死に声を堪えた。





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