015 世界は破滅を待っている 
罪を数え 量り 罰を与える  本文中SAMPLE


 入隊にあたり、真選組屯所へ出向いた。松平とはそれ以前、師範に紹介され顔を合わせた事があったが、これが現役の警察庁長官かと目を見張る程いい加減な男だった。
屯所での局長、副長との面談の時にも居合わせる筈が、まだこない。
「局長の近藤勲です」
 先に顔合わせを初め、そう名乗った男は、真っ直ぐな視線を僕に向けた。大きな体躯で背をしゃんと伸ばし、成程、見たところ歳は僕と変わらないようだが、何がしかの頭領の威厳はあるように見えた。
 副長の土方十四郎、と名乗った男は整った容貌で素早くこちらを眺め回した。どうかすれば幼くすら見える男の、値踏みする目付きだけが鋭く、老獪だった。
 こちらも剣術所で塾頭だ。人と相対する場合の振る舞いは弁えている。案の定、簡単な剣術談義とべんちゃらに、近藤は謙遜を交えながらも乗ってきた。
「近藤さん」
 途中、一度だけそう言って近藤を嗜める目を向けた土方の目は、不思議と僕に引っかかった。
 最初に睨め回した後、土方が僕を見る目は無感情だ。そのせいで土方の事を僕寄りの、情に薄い頭脳派だと短時間で認識していた。だが近藤を窺う目の色には、彼を尊重する様子が見て取れた。聞けば真選組結成以前からの付き合いであるという。近藤は元道場主という事で、そのまま大将へと祭り上げられたか。
 近藤は大層単純な男のようだ。時勢を述べれば易々と賛同し、「凄いものだ」と「大したもんだ」と言いながら、一々「な、トシ」と土方へと話を振る。その都度土方は無感動な声音で「あァ」と「そうだな」と相槌を打った。そこで初めて近藤は、小さくほっとしたように僕へとまた目を向ける。
 人が好さそうな男。それが近藤の印象だった。
 笑顔を見せながら僕は値踏みを続ける。立場上、僕の上に立つ男。真選組を統べる局長。もっと粗野な男かと思ったが。
 土方という男は、まだ確りと判らない。
 それでも近藤の様子から押しなべて鑑みるに、僕が真選組へ参加するというのは、僕の政界への足場という意味以上、まさに彼ら集団の為にすらなるだろう。






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