百聞は一見に如かず
俺と近藤さんが見廻りをしていた時。 通りかかった商店街の蕎麦屋のご隠居に捕まり、息子の嫁がどれだけ出来た嫁かという話を聞かされた。 もう空で言えるぐらいに何度も聞いた話だ。おかげさんで俺ァ息子の名前も嫁の名前も孫の名前どころか、孫が持ってる熊のぬいぐるみの名前まで言えるぜ。しかもご隠居、前から思ってたんだが、多分その名前、フンフンソワーズじゃなくてフランソワーズじゃねぇか?フンフンてなんだよ。フンドシにちょっと響きが似てるよな。それこそどうでもいい話だぜ。 つらつらとそんなことを思いながら、俺は何本目かの煙草に火をつける。煙を吐き出し隣へと目をやると、いつも俺の分まで相槌を打ちながら熱心に話を聞く近藤さんの様子がおかしい。なんとなくそわそわしている。 やっとご隠居に解放される頃には、顔も青ざめてだらだらに冷や汗をかいていた。 ちょっとこれはやべぇんじゃねぇか、もしここで近藤さんがぶっ倒れたら堂々と抱き起こしてやれる、それより姫抱っこにして首筋の匂いとか堪能しちゃったり?!ついでにあちこち触っておこう、いっそ意識が飛んじまってたらもうちょっとなんかしてもバレないんじゃ、いやもっと具合が悪くて入院したら、毎日毎日上から下まで俺がお世話してやんねぇと、いやいや考えすぎだろ、俺!!しかもそんな妄想にちょっと反応しかけてる…。俺もまだまだ若いな、フッ。 俺は数瞬の間にそこまで考えた自分に一種の感動を覚えながらも取りあえず 「どうした?」 と声を掛けた。 すると、近藤さんの答えは 「ヤバい。猛烈にしょんべんしたい…」 という簡素なもので、俺はちょっとしょんぼりしてしまった。 「…さっさと切りあげりゃ良かったじゃねぇか」 声に力がなくなってしまっていたが、幸い切羽詰っている近藤さんには気づかれないで済んだ。最早返事すらない。俺は脳内データベースを検索する。近くのトイレトイレ…。 脳内で小さな俺がトイレを求めてたくさん駆け回っている。 チビの一人がうんしょうんしょと画像を引っ張りだしてきた。 ええとこれは、こないだ湯飲みを置いた時に指が触れ合った茶屋だ。 チビ全員で右手の人差し指を眺めてうっとりしている。 でもここちょっと遠いな、次。 やたらと自信ありげなチビが、無罪の判決を持っている人のように画像を掲げて走り出てきた。 お、あったかトイレ!! ってここは近藤さんと将来的にどうにかなって「ご休憩」する予定のところじゃねぇか!! 確かにトイレはあるけれども!! 他のチビたちも赤い顔を両手で隠してキャッとか言ってる。 よおし期待しとけ、お前ら!! でも今回はまだ早ェぞ!! 今度こそあった!おお公園!ここのベンチで近藤さんに缶コーヒーをおごってもらったんだった!! 記念に缶を持って帰りたくて、携帯灰皿を忘れたフリして灰皿代わりにってその日一日あの空き缶持って歩いたな。 「こっからだと一番近くて10分ぐれぇ歩いた公園だ!!」 「む、り…」 近藤さんの額の汗の量が増えた。 「背に腹は変えられん!!ちょっとそこの路地裏に行って、ちゃちゃっと済ませてきちまうから!トシお願い見張ってて!」 「ったくしょうがねぇな…」 俺は呆れ顔で煙草の煙を吹いた。まぁ予想はしてたけど。 水音は水音でも全然清涼さのかけらもないような水音が路地裏に響く。それを追いかけるような近藤さんの解放感に満ち溢れた、なんとも間延びしたふぃ〜〜というため息。俺にとっちゃ絶妙なハーモニーで天使の歌声にも勝る。 さて、と。 見張り見張り。 「…トシくんトシくん」 「なんだ」 「あの。俺が見張ってろって言ったのは俺の股間じゃなくて表通りのつもりだったんですが…」 「アンタの尿のキレが悪くねぇか見張ってんだろうが」 「悪くねぇ!!万一俺の尿のキレが悪くてもトシにゃ迷惑掛けねぇだろ!」 「尿のキレとタチが関係ねぇわけねぇだろう!!」 「だからお前にゃ関係ねぇじゃんかよぅ!!」 「関係はこれから築くんだよ」 「なんの関係だぁああ!!」 「お、終わったな。じゃ立ちションは立派な軽犯罪だから逮捕する」 「俺の息子に手錠掛けんのやめたげてぇえええ!!!」 俺はしぶしぶと手錠を外した。 それにしても相変わらずご立派なこって。 今日は平常時の胴回り採寸成功。 −了− |
「忍ぶれど」の平良さんが相互リンクの記念に、と書いて下さいました! わああん。大好き! 平良さんの「駄十四郎さん」っていうシリーズの一つです。 平良さんのしっとりした大人シリアスも大好きなんですが、 このはっちゃけ十四郎さんの可愛さはまた格別…! ホントに大好きなんでリクエストさせて頂いたのでした。 トシさんの見事な変態ぶりと、それに付き合う近藤さんの懐の広さに脱帽です(笑)。 もーチビトシ一人欲しい! でもどうせチビトシ、近藤さんの事しか考えてないから 私が貰ってもね! って感じです。 チビトシと脳内会話するトシさんが可愛すぎる…。 平良さん、本当にありがとうございましたー!! 07.10.16 |