晴天祈願


 近藤が何気なく見始めた夜のバラエティ番組を、一緒になって見ている途中「あ」と土方が小さく声を上げた。
「ん? どした」
 昼はまだ日差しが強いが深更にはどこかで秋の虫が鳴く。冷房をつけずに眠れるようにはなったが、扇風機はまだ回しっ放しだ。
「アンタ。……誕生日だ」
 風呂上りにも嵌めたままだった腕時計に目を落とした隣の土方の声に、近藤が言われたまま目をやり、壁のカレンダーを眺めた。コマーシャルの合間に日付の変わった事を確認すると、近藤は何と言ったものかと「うん」と頷いた。
「なんかくれんの?」
 この位の時間になっちまうとこう、同じCMばっかでつまんねェな。そんな事を思いながら、手持ち無沙汰でそう訊いた。
「欲しいモンあんの?」
 ギョッとした風情で言われ、近藤は「いやいや」と慌てたように首を横に振る。
 屯所内は「キリがないから」と土方によって隊士間のプレゼントのやりとりが禁じられていた。
「ん」
 鼻から抜けるような声を出すと近藤は、唇を尖らせ土方へ向ける。
「何?」
「いや、キッス位はしとくかって」
 その言葉に土方は吹き出す様に鼻を鳴らすと、寄せられた近藤の額を指で軽く弾いた。
「いってェ」
 呟いた近藤が、目尻を下げながら土方の手首を掴み顔を寄せる。
「明日さ、なんか旨いモン食いに行こうか」
 鼻先同士触れ合う程の距離で囁けば、土方は手首を握られたまま口元に笑いを浮かべた。
「いいな、アンタのおごり?」
「なんで! 俺誕生日! 俺王様!」
 両頬を捕まえ、近藤が額と額をぐりぐりと合わせる。
「だって明日って言うからさァ」
 わざと揚げ足を取って言いながら、土方はくすぐったそうに首を竦めた。
「んあ? あ、今日? ってか寝て起きたら明日なんですぅ。一日は朝から始まるんですぅ」
 ぷっとわざとらしく膨れてみせる近藤がおかしくて、土方もつい笑顔になる。
「無茶苦茶だ」
 笑いながら呟いた唇を近藤に塞がれる。ついばむように二人して何度も唇を合わせると、ふっと熱い吐息を零しながら近藤が土方の顔を覗き込んだ。
「メシ食ってドライブして、昼でも夜でもいいけどさ、夏の終わりの海なんか見て、車ん中でこっそりキスすんの。ど?」
「仕事はよ?」
 優しい口付けにうっとりしながら、土方がとりあえずと釘を刺す。
「夢のお話。例えば。理想。……ど?」
 囁きと共に土方の柔らかな瞼に、近藤の宥めるようなキスが繰り返された。
「夢の話ならどーんと世界一周旅行とか言えばいいんじゃねーの」
 その言葉に近藤は「ナルホド」と呟いて土方を抱き締め、ゆっくりと押し倒す。
「ちょっと」
 テレビついてるし電気ついてるし畳の上だし。そう思いながら土方が形だけためらってみせる。
「まァまァ。今から一緒に世界旅行って事で」
「夢の中で?」
「いいじゃない、夢中って事で」
 アンタそれでウマイ言葉言ったつもりじゃないだろうな?
 そんな適当な事を考えつつも流され、キスをしながら、土方は頬を緩め、アンタの今日が晴れていますようにと祈った。





  近藤さんお誕生日おめでとう!
トシさんや沖田の誕生日ネタより早く
近藤さんの二回目バースデーネタを書く事になるとは。
今年も文中で言ってませんが「お誕生日おめでとう!」とここで沢山言っとくよ!
おめでとう! 近藤さん大好き! どさくさで告白!

08.09.04