ゴキゲン・フキゲン 「トシー。入るぞー」 言うと同時に俺はトシの部屋の襖に手を掛け、遠慮なく戸を開く。 トシは煙草を吸いながら、ドラマの再放送を眺めていた。 「よ。三船屋のどら焼き買ってきた。お茶入れてくれよ」 傍らに座ると紙袋をガサガサやりだした俺に文句を言うでもなく、トシはTVの音量を上げ、素直にお茶を入れてくれる。 でも、俺は知っている。コイツ今、機嫌悪いんだ。 仕事サボってる山崎見つけて怒鳴って追っかけて、それだけならいつもの事だが、今日はそれで派手に転んじまったそうだ。幸い頭は打っちゃいねェようなんだが、見てた隊士は大爆笑だったらしい。そのままぷいっと部屋にこもっちまったトシの怒りを心配した山崎が、真っ青な顔して教えてくれた。 「食わねェの?」 部屋に備え付けた給湯セットでお茶は入れてくれたが、俺が渡したどら焼きには手ェ付けないトシに尋ねると「いらね」と短く吐き捨てられる。 「ウマイのに」 TVから目を離さず煙草を吸い続けるトシに、にやにやする。 「腹ァ減ってねェんだ」 そっけない。すっかりつむじ曲げちまって。あーおかしい。お前の不機嫌が楽しいなんて、申し訳ねェた思うんだけど。 「何笑ってやがる」 コマーシャルになって俺の視線にようやく気付いたと、トシが俺のにやけ面を見咎める。 たまらんな。俺ね、お前のその顔、スッゲー好き。 「べーつーにー。思い出し笑い」 適当なこと言ってとぼけると、その台詞すら気に障ったか、トシは苛立たし気に茶を飲み干した。 普段取り澄ましたお前がそうやって、拗ねたりいじけたりしてんの、可愛いよ。怒りんぼってなやっかいだが、それすら俺だけに見せてくれりゃァいいのに、なんてな。 「ど助平爺ィ……」 ボソリと呟くトシの言葉に、さすがに俺は噴き出した。 「ひっど! そりゃァ言い過ぎだろうがよ! 確かにお前は可愛いし、俺ァど助平ですけども!」 唇を尖らせながら、えいっと腕を伸ばしトシを捕まえると、耳元でぶうぶうぶうのブーイングを浴びせてやる。 「ど助平は認めんだ?」 下らない掛け合いに、トシがやっと笑顔を見せた。嬉しいな。全部好きだけど、やっぱその顔が一等賞だな。 「そこは否定できません」 言って腕の中のトシを見下ろせば、トシは「そうだよなァ」なんてクスクス肩を揺らして、お前それこそ思い出し笑いじゃねーか。 ど助平同士ならお似合いだろって、俺はそんなトシにつられて笑った。 |