眠れる森の ある日ある時ある場所で、土方家に十四郎という名の、珠のような男の子が誕生しました。 そのお祝いにと精霊達が次々にやってきては祝福の言霊を授けます。 「黒髪ストレート」 これは銀髪クセ毛の精霊の言葉です。 サングラスに寸足らずズボンの精霊も言いました。 「食いっぱぐれのない職業」 「派手な存在感」 言祝ぎを捧げながら、地味めの精霊がじっと羨ましそうに赤子を見つめています。 皆、祝いの席だというのに少しずつ妬心が募るような複雑な顔をしていました。 「じょ、女性にモテモテ……」 そう言ったメガネの精霊にいたっては、目の奥がひっそり濡れています。 その言葉を聞いた、末席にいた姉弟の精霊の内、姉の方が唐辛子せんべいにタバスコをかけながら「困ったわ」と呟きました。 「どうしやしたかィ、姉上」 他人の祝いなんざ下らねェ、姉上が行こうというから仕方なくついてきたと退屈そうに座っていた少年に、姉がぽつりと零します。 「私も女性運を授けるつもりだったのに。どうしようかしら」 その言葉に少年は、大好きな姉を万が一にも取られたら、と考えてしまいました。ますます面白くないと気色ばみます。 「その子は!」 皆が祝福を送った後、立ち上がった少年は言いました。 「その子は自分がどんだけモテようと、ゴリラみてェな男を好きになる!」 おおお。なんという事でしょう……! その場に集まった精霊たちは、その不吉な言葉に目を丸くし、必死で口を閉ざしながら肩を揺らし俯いています。そうしなければ場違いにも笑ってしまうと思ったからです。 しかしそれも、誰かが堪らず噴き出すまでの間でした。 「ゴ、ゴリラ、ひー! なんで、金も女も選り取りみどりで、ゴリラ、しかも男……!」 ぶはあっとそれぞれ笑い転げながらザマーミロとばかり精霊たちは顔を見合わせ噴き出して笑います。 「駄目でしょ、そーちゃん!」 周囲を沸かせて得意げになっている弟の手を引き、姉は立ち上がりました。言葉を授けていない精霊も、残るは彼女一人です。 「大丈夫です、私の祝いがありますから!」 やや紅潮した顔で耳目を集めると、姉は、すぅと大きく息を吸いました。 「その、相手のゴリラもこの子を大好きになります!」 姉の祝いの宣言に、笑い転げていた精霊たちは、その言葉に今度はニヤニヤ笑いがとまりません。 「あー。ねー。そっちかー。いや、いいんじゃねェの、幸せならウン」 「あれだろ、こっちにはこねェんだろ? ゴリラ一筋なんだろ? ならいいんじゃねェのお似合いお似合い」 「折角のモテ男がねー。でも幸せならしょうがないですよね」 口々に言いながら、やがて精霊たちは帰っていきました。 残された土方家の赤子の、今後が楽しみです。 |