おやすみ 「トシ。……トシ」 夜半、隣室の襖越しに、近藤の静かな声がした。 「んー?」 眠ろうと布団に入ってはいたものの、寝付けずにいた土方が軽く答えると、近藤が静かに襖を開けて枕を小脇に部屋へ入ってくる。 「一緒に寝よ」 言いながら膝をつき、覗き込む近藤の姿を見ると、土方は素直に体を脇へ寄せた。 布団に身を滑り込ませた近藤が腕だけを出して、とん、とん、と緩やかに土方の体を叩く。 土方としては、またアンタ、ガキにするような真似しやがってと思わないでもなかったが、実際されるがまま、したいようにさせておけば、眠れないまま焦れていた筈の自分の口から大きなあくびが飛び出した。 どうやら手を出してくる訳ではなさそうだと察した土方は、近藤の腕の中、あくびに濡れた上目遣いで尋ねる。 「どしたの」 「昨日ホラ、暑かったろ? んでも、今日寒ィし。なんかよ、今の内にこうやってくっついてねェと、また次暑くなってそのまま今度は秋までお預けかよって。そんなの寂しいでしょ。だから、寒い間に一緒に寝ようって」 言うと近藤は、夜具の上から軽く土方を抱き締めた。 「夜這いじゃねェんだ?」 鼻先で小さく土方が笑うと近藤が、布団の上に出していた腕を中へ入れ、寝巻きの上から体のラインを辿ってくる。 「期待した? そこまで言うなら俺としても、」 「そこまでもどこまでも言ってねェ」 目の前でからかうように膨らんだ鼻をぎゅうとつまんでやれば近藤は、瞳の奥に楽しそうな色を浮かべながらも、肌へ這わせた手をどけた。 「たまにゃこうやって、くっついてんのもいいだろ」 ちゅ、と唇を鳴らし、近藤は眠たげなとろけた声を出す。そのまま瞼を閉じた近藤の顔を常夜灯の暗い光に透かし見ると土方は、次は自分がと近藤の体をゆっくりと、拍子を取りながら軽く何度も叩いて尋ねる。 「狭くねェ? 寒ィからってくっついて、肩出してたんじゃ意味ねェだろ」 抱かれるのは勿論やぶさかではないが、こうしてただ体を寄せて眠るのはなんとも面映い。欲望の為と言い訳できない甘さに浮ついてしまう。それでも居心地のよさに逃げられない。 「平気。……お前も寝ろ」 近藤が重い瞼を薄く開け、目の前の頬を親指の腹でそっと撫でるようにこすり、囁いた。 土方としては、布団を半分、無理やり奪ってその言い草かと噴き出しそうになる。だが、先刻まで散々寝返りを打ち、眠れやしねェと苛立ちにも似た気持ちでいたのも事実だ。それが徐々に落ち着いてくる。 うるさくしたつもりはなかったが、何度も起き上がり、半ばヤケクソと煙草を吹かしては消しする音や気配をこの人は、何かしら察してきてくれたのだろうか、と思う。 身を寄せ、近藤に触れられただけで安心したのか、眠気がやってくる。単純なものだ。こんなところを過去の自分が見ればどう思うだろう。信じられねェと目を回すのは勿論だが、と内心おかしく思う間に、すうすうと規則正しい近藤の寝息が聞こえてきた。 つられて目を閉じているとヤニくさい筈の自分の布団から、不思議とひなたの匂いがする。近藤の熱と湯上りのほのかな香りに柔らかく満たされながら、土方もやがて眠りに落ちた。 |