お前の母ちゃん何人だ? 「おーい。いるんだろー? いねェのかー?」 万事屋の呼び鈴を何度も押しながら、近藤は自分でもマヌケだなァと思いつつそんな声をかけた。 「プリン買ってきたんですけどォー?」 その言葉の後、シンと静まっていた万事屋の中で、ドタドタと足音が響き事務所の扉が開かれる。 「いらっしゃい、プリン屋さん」 どこかぼうっとしたいつもの顔で銀時が出迎えた。 その言い方に、相変わらずだと笑顔でフンと鼻を鳴らすと、近藤はさっさとソファーに坐る。 足を大きく広げたその両膝に手を置き、近藤は神楽と新八の顔をゆっくりと真剣な目で見ると、銀時に視線を戻し、頭を一度深く下げた。 「すまん。今回の事では、本当に世話になった」 そう言うと、近藤は持ってきた手提げ二つをそれぞれ銀時と神楽に渡す。 「個人にお土産あるアルか!? ゴリラさすが太っ腹アル!」 「チャイナさんにも助けてもらったしな」 さっそく袋をがさがさ開けながら銀時は 「ちょ、プリンなんかで銀さん釣れないんだからね? 俺はそんなにお安くないんだからね? 芸術の為なら脱ぎますってコノヤロー手術の為ならともかく芸術の為で脱いでんじゃないよ、若い子がポンポンポンポンそんなさァ? こないだのアレなんかお前、アレで19は嘘だろどう見てもって、アレ何の話?」 等と長い独り言を呟いていた。 神楽の方は箱買い酢昆布に飛び跳ねて喜んでいる。 新八は、くわっと目を輝かせたが、近藤が「新八くんに」と胸ポケットから取り出した筆箱のようなものを、 「そんな僕、物が欲しいとかお礼が欲しいとかそんなつもりじゃなかったんですけどね、でも万事屋ですからコレが仕事ですからえへへ」 と笑いながら受け取ると、蓋を開けた。 「近藤さん……? コレなんですか?」 中にへろっとした布が入っているのを見て新八が恐る恐るといった顔で近藤を窺う。 「あれ? 知らない? 持ってなかった? よかったー。それ、眼鏡ケース」 「なんじゃそりゃー!!!」 眼鏡ケースて! 眼鏡ですらないよ! 僕のアイデンティティ眼鏡を納めろって事かそうするとこれはズバリ僕入れ!? 僕の魂入れ!? え何ちょっと骨壷っぽいその響きィィ。 「あ、プリンは多めに買ってきたから。みんなで食べるように」 既に三個めのプリンに取り掛かる銀時に、近藤は「そのプリン、デパ地下で一個600円だから!」と指を突きつけた。 「マジでか!」 「スッゲ600円のプリン寄こすアル! 砂糖の塊のくせに生意気アル!」 「僕にだって食べる権利はありますからァァ」 「ありがたみが増しただろォ?」 いつもコイツら賑やかだなァと近藤は笑う。 と、新八が寺門通の歌を、鼻歌というには勢いよく熱唱し始めた。 誰に向かって歌ってんのかなァ。俺に聞けって事かなァってかシカトでいいよね? こういう場合? 手拍子とかしなくていいんだよねェ? そんな事を軽く意識しながら、近藤はふと耳に入ったそのタイトルにもなっている歌詞に、次のプリンの蓋を開けるかどうかを「こないだの検査……って、あんのヤブ医者……。賞味期限は本日0時……」とぐずぐず悩む男に目を向ける。 以前から気になっていた。 弁が立つのに剣も強ェ。おまけに木刀とはいえこのご時世に、剣を離さず侍でございと、尚且つ自由人でございと生きる男。 喧嘩にゃ滅法強ェと判っちゃいたし見もしてきたが。 先日の、あの、ヘリとの綱引きゃァ、ありゃァ。 「お前の母ちゃん何人だァァァ」 「うるっせ新八」 スパコーンとどこからか取り出したスリッパで、新八の頭を叩く銀時を、近藤は小さく笑った。 「なァ。昔っから気になってたんだが、万事屋、お前さァ……」 「んァ?」 もーいいや思い残しちゃ駄目なんだよ人生は、と更にプリンを食べ始めた銀時がちらりと、一旦言葉を切った近藤を見る。 こういう場合、何て言ったモンかなァ。 近藤は短く立たせた髪を掻くと、それこそもういいやと軽く肩を竦めた。 「その服。それ、イラッてなんねェの?」 「ハー?」 「だってそれ、肩とか落ちねェの? その位ならプロデューサー気取りに腰に巻くってか実際上も下も洋服着てんのにいらなくね? なんで着物斜め掛けになってんの? あれか? ぶ……無頼とか気取ってんのォ?」 耐えられん! と自分の台詞が恥ずかしくておかしくて、ぶはァっと盛大に吹き出す近藤に、 慌てたように銀時は、それでも多少赤い顔で「ロックゴリラにバカにされるいわれはねェ!」と叫ぶ。 「ロックゴリラ? アレ? ゴリロック? ゴリロッカー? あ、これでいこう。ゴリロッカー。これは暑さ寒さもそこそこしのげる、画期的なスタイルなんだよ! 便利屋らしい合理主義なんだっつーの!」 「あ、ちゃんと意味あったんだ?」 照れた銀時にニヤニヤ顔を向けながら、近藤が立ち上がる。 「邪魔したな」 「なーに? あんだけ大活躍の万事屋さまご一行にプリンだけでお礼済ませようってェのォ?」 わざと減らず口を叩く銀時に、言うか言うまいか逡巡する素振りの後、近藤が口を開いた。 「銀時。……俺なァ。思ったんだが、お前の事は結構好きだ」 「ええっ銀さん可愛いから! ヤッベゴリラのハートに火ィ点けた!?」 うるせー。まったくいつもいつも茶化しやがって。 「だからな、言っとく。……お前が敵じゃなくてよかったよ」 今日はそれだけ言えりゃァいいや。 お互いに何か含んだ物言いたげな視線を交わすと、近藤はそれじゃあと手を振り事務所を出る。 今はまだ、そんな時じゃない。 |
銀さん初書き。文章硬いですね。申し訳ない。精進します。 銀さんは結構好きです。 どの位ってーと、近土の次に好きなカップリングはマダ銀って位。 初期真選組って事か!? 判りやす(笑)! 近藤さんと銀さんの話は、機会があればまた書きたいです。 あの歌を天人あぶり出しの為につんぽが作ったんなら凄いね、攘夷派。 という話。 07.06.19 |