キラキラの冬 冬の早い陽が落ちると、街には風が一際強く吹いた。 土方は首をすくめ、近藤は襟元のスカーフを軽く持ち上げ顎の下を覆い直す。 キラキラと色を変え瞬く電球でライトアップされた街路樹の並木通りを、買い物帰りの荷物を抱えた家族連れや、待ち合わせた恋人達が行き交っていた。 既に酒でも入っているのか、若い男達の集団が一角でわっと声を上げ笑う声がする。 そちらに隙のない視線をやると、土方が苛立たしそうに舌打ちをして煙草を咥えた。 真選組は今日、幕府の上層部と天人の会合の警備に借り出されている。 土方にとっては、何もこんな街中で集会する事ァねェだろうと寒さもあって腹が立ってくるが、隣に立つ近藤は、軽く腰の刀の柄に革の手袋をした左手を乗せ、背筋を伸ばしたまま口元を微かに緩め、じっと街並みを眺めていた。 ふう、と細く長い煙を吹き出し、土方は隣の近藤へと流れる紫煙に、立ち位置をずらす。 「何にやけてんの」 うう寒い、と風に流れる自分の髪を邪魔っけにかき上げながら土方が近藤に尋ねた。 「俺は嫌いじゃないよ。こーゆーの」 ちらりと土方に目をやると、近藤はスンと鼻をすすってまた顔を人通りの多い街並みへ戻す。 「ワクワクしてドキドキしてチャラチャラ着飾って、なんだか嬉しそうにしてんだよ」 そういう近藤自身が嬉しそうな顔をしていた。あーアンタ風俗ネオン大好きだっけな、と土方は口を歪め、傍らの灰皿に短くなった煙草を捨てる。 「知らない誰かにも優しくできるような気がしねェ?」 「……気のせいだろ」 なんてお人よしだ。アンタはいつでも誰にでも、年柄年中優しいじゃねェか。 「多分な、これは誰かの幸せが溢れてんだ」 続いた近藤の言葉に、土方はどこの詩人だとさすがに呆れた声を出した。 「誰かって誰だよ」 「さァ? 誰かは誰かだろ」 なんだよその辺はあっさりしてんだなと土方が鼻白むと、近藤は警備するホテルを振り返り仰ぎ見る。 「キョロキョロすんなよ」 自らも煙草を吸ったりしていたくせに、土方がそう注意した。 「ここの上ってーと旨いんだろうなァ」 呟いた近藤は表通りに向き直り、ちらりと土方を横目で窺い言葉を続ける。 「次はデートでこようか」 「なっ」 瞬間土方の体温がぽんっと上がった。アンタのそーゆーベタなトコどうかと思うけどコノヤローそんな事言われたら畜生。 寒くて人が多くてやかましくて、街中キラキラこれ見よがしに飾り立てられて、そうだなアンタとなら寒いのも平気かも。 「じゃ、当分昼は回転寿司だな」 土方の軽口に、近藤は楽しそうに目を細めた。 |