幕府の犬ってなんじゃらホイ 「よお。ただいま」 「おう。お帰り。お疲れさん」 「うす。あーやっぱ屯所いい、ほっとする」 「おっさんかよ」 「ひっで。……留守、どうだったよ」 「ん。毎日メールしてたろ。特に変わりはねーよ」 「そっか」 「……風呂、沸いてっけど。食ってきたんだろ?」 「ん。今日は風呂いいや。温泉地だったからよ、朝風呂ん入ってきた」 「オッハッラッショースケさんかよ」 「ははは! 朝酒はしてねェけどな!」 「……お疲れさん」 「おう」 「……飲むか?」 「まだ早ェだろ。あーでも飲むかなァ。……付き合えよ」 「ばっか。こんな時間から上二人で飲んでどうするよ」 「まァま、ちょっとだけ。今日までお前見廻りねんだろ?」 「アンタが何時に帰ってくんのか判んなかったからな。……ちょっとだけなら」 「やったね。あ、俺土産に酒買ったのに送っちゃったわ。ま、今日はこっちでいっか」 「ちょ、コップで?」 「いーからいーから」 「あ、ちょっとでいいってば」 「まーまーまー。ハイ乾杯ーお疲れー」 「……お疲れっ」 「……あー染みるー。はー……。極楽ぅ」 「で、出張はどうだったよ」 「どーもこーもねーなァ。今回完全にお守り役だしよ。平和なのはありがてェが名を上げるチャンスもなかったし」 「局長が付いてて襲われましたじゃ洒落んなんねーだろ。そんでいンだよ」 「まァね! そうなんだけどね!」 「よっぽど何かあった?」 「べーつーにィイイ。そっちはどーよ。途中アレだろ? 城、呼ばれたって言ってたろ?」 「あー……あったな、そんな事もな」 「うっそォ。ちょ、そーゆーとぼけ方恐ェんですけどォ。何よ、何かあったろ?」 「いやいやいや。ちょっとな。腹立つ天人斬っといた」 「はーいー? え、何が? 何て?」 「刀使うのも勿体ねェって、そらもーチェーンソーで胴体真っ二つ」 「ハァァァ!?」 「……なーんちゃって」 「……。うん。お疲れさん」 「なんだよ。アンタはアレ、いっつも呼ばれちゃ行ってんだろ? おまけに外でもお守りだったんだからよ」 「あーっと、サンキュ、零れる零れる。……で?」 「ん?」 「誰斬ったの?」 「なんだよニヤニヤして」 「いやーここだけの話。言っちゃえ。ん?」 「いやァ。天導衆とかそんな、言っちゃ悪ィだろ」 「あっはっは、言ってんじゃんかよ! うんまァそうかなっと思ったけどよ」 「上様ン為なら何言われたっていいし、とっつァんにボロカス言われんなァ慣れてっけどよ」 「何よ。何て言われた?」 「……大したこっちゃねーよ」 「まァまァまァ。ハイぐーっとぐっと」 「あっコラ俺ァ一杯だけって言ってんだろ?」 「いーからいーから。俺帰ってきてんだからもーお前が気ィ揉まなくっていいって」 「そーゆーアンタが飲んでるからだろーがよ。……まったくっ」 「おー。いい飲みっぷりじゃねーの。おにーさんイケる口だね? ささ飲みねェ食いねェ」 「……犬って」 「え?」 「幕府の犬って。アイツ等。腹立つ」 「あー……」 「クソったれのバカヤロー」 「あーもーホラァ。泣かないのっ。男の子でしょっ」 「ちょっ、撫でんなって。髪っ。だっれが泣くかよバッカヤロ! 俺ァ怒ってんだよっ」 「……。よし。じゃあそれ、考えてみましょう」 「あァ?」 「いやァ。幕府の犬、って言われて、怒る理由を考えてみましょ、って」 「考えるも何もねーだろ。犬扱いされて喜ぶ奴ァいねェよ」 「えー? だって幕府のチワワ、って何か可愛くね?」 「はァ!?」 「なんか超、幕府に大事に、愛されてそうじゃね? 幕府のチワワ」 「真選組がチワワでアンタいいのかよ」 「いやいや、例え! これは例え。幕府の秋田犬はどーよ」 「……忠実そうでいいんじゃね?」 「お前ハチ公とか好きだもんなー」 「なんだよ。アンタがどうだって言うから」 「コリーとかどうよ。賢そうじゃね? 貴族っぽいしさァ」 「貴族っぽい犬ってーとアレ、鼻っ面の長ェの。こう、背が高くって細くて手足も長ェ。アレ生で見るとびっくりするよな、人が入ってんじゃねーのって」 「ドーベルマン? デカイってーならボルゾイとかハウンド系か?」 「アンタ犬詳しいな!?」 「おう。そんなに詳しかねェけどよ、犬は好きだ。猫も鳥も全部好きだ」 「そりゃよかったな」 「いいのか? や、そんなんどうでもいいんだけどよ。だからさ、犬でもいいんじゃねェの、って」 「なんでそうなるんだよ」 「だってさァ。犬って、スゲー鼻利くじゃん。人間に聞こえねェ音も聞こえんだろ?」 「……だから?」 「だっからさァ! 幕府のナマケモノって言われたら結構ショックかなァって気もすっけどよ、犬なら賢そうだし可愛いし忠実だしって考えりゃ、こりゃアレだろ、けなしてねェだろ、褒められてんだよ」 「ぷっ。なんでだよ。てかアンタの理論でいうと、ナマケモノだって人間にできねェ事できんじゃね?」 「あーできるだろうね! 俺木登り得意だけどずっとしがみ付いて暮らすとかできねーし。ハンッパねーよナマケモノ。ってナマケモノさすがによく知らねーけど」 「ゴリラじゃねーんだ?」 「あっ。もーお前までまたそんな事を! ゴリラって紳士なんだからな!」 「誰もアンタの事たァ言ってねーよ」 「ホントかよ」 「いいじゃねーか。紳士なんだろ?」 「紳士だよォ? そいつァお前が知ってんだろ?」 「紳士ってツラかよ」 「またそーゆー!」 「……紳士かどうかは知らねェけど。アンタ、偉いな」 「え?」 「いや……。なんての? あんな化けモンみてーな奴らに呼び出されてハイハイってさァ。なんかもー俺なんか、途中で刀放り出して煙草吸いに行こっかなって思ったし。……っだよ。ニヤニヤしてんじゃねーよ」 「んー? だってさァ、結局、お前、逃げなかったろ?」 「そりゃ。仕事だろうよ」 「うん。だから、お前も偉い。お前も素敵」 「……ありがとよっ」 「あ、行くの? もー今日はこのまんま酒盛りでいいんじゃねーの?」 「そうはいくかよ。……アンタはアンタの仕事終えて帰ってきてんだ。ゆっくりしとけよ」 「おう。サンキュ。なァ!」 「ん?」 「あのな。俺ァ別に褒められたくって真選組やってる訳じゃァねェんだよ」 「……そう、だな」 「でもな、お前に褒められっと、一等嬉しい。一等シャーワセ」 「……。なら、後で、幾らでも褒めてやる」 「何て? 「キャー素敵格好いい、抱いてー」って?」 「バッカじゃねーの」 「あっはっは。……後で、な」 「おう。……後で」 |