「それ欲しい」 「近藤さん。こっち、判子いいか」 二人して書類整理の途中、土方が新たな煙草に火を点けふうと一服しながら顔を上げた。 「おう」 んー、と伸びをした近藤は、ついでとばかりに大きく一つ欠伸をした。そのままぱたりと後ろに倒れ込む。 「……判子」 横目でちらりとその様を見た土方は、口先ではそう言いながらも急ぐ事ァねェやと手を後ろに付き、天井を見上げる。 「押しといて」 適当な事を言いながら、近藤はシャツの胸ポケットから飴玉を取り出した。寝転んだまま包みを開け、飴玉をしゃぶる近藤の口元から、甘いレモンの香りと、がちゃん、がちゃん、と歯に当たる音がする。 飴玉ひとつ舐めるのに賑やかな人だなァと呆れながらも見ていれば、見上げた視線で近藤は「ごめん。コレ、一個しか貰ってねェ」と呟いた。 「誰に貰ったの」 知りたい訳でもなかったが、無駄話の糸口にと尋ねると「山崎」と短く答えが返ってきた。そうして再び沈黙が訪れる。 土方は短くなった煙草を灰皿に押し潰し、近藤を見た。飴玉がカラコロと舌に絡まれ鳴っている。 「トシ」 じっとこちらを見つめる土方の視線に、近藤は目を細めた。 「欲しい?」 言って近藤が、前歯で器用に飴玉を挟み、顎をしゃくるよう喉を晒した。 煙草でいがらっぽいんだ、丁度いい、欲しいに決まってんだろう。 土方は近藤の顔を覗き込むよう体勢をずらした。誘うように眇めていた瞳が伏せられ、唇が薄く緩む。その近藤の口に遠慮なく土方は親指と人差し指を突っ込んで飴玉を探り、掴み出した。 「がっ。ちょっ」 ここは甘ーくキッスで口移しだろ!? 何そのがさつな追い剥ぎ行為! と、近藤が目を剥きながら口元を拭い、体を起こすのを満足げに眺めながら土方は、ぽんと飴玉を口に入れ、指をしゃぶる。 その腕を取ると、お返しとばかりに近藤が土方の濡れた指を舐めた。 「コラ」 掌をべしゃ、と近藤の顔に押し付け土方が笑う。 悪戯な土方の手首を握った近藤の顔が近付き、それが欲しいよとばかりに寄せられるのに、それから時間は掛からなかった。 |