「そんなのやだ」 「トシー」 「……随分男前な面ァしてんじゃねェか」 夜分俺の部屋にきた近藤さんの頬に赤く、張り手の跡を残るのを見て、俺は呆れたもんだと深く煙を吐いた。 日頃攘夷の残党だけじゃなく、幕府の高官や天人相手の矢面に立ち、神経使ってくれてるなァこの人だ。 飲みに行くなたァ言わねェ。女追っかけんのもいいだろう。それで、ちったァ気が紛れんなら俺が口挟むでもねェんだが。 「男っぷりが上がったろ?」 バツが悪そうにおどけて笑う近藤さんにつられ、俺は口を笑いの形に歪ませた。 「どうせならもっと色っぽい跡付けてくれる女にしろよ」 天下の真選組局長様が、女にぶん殴られてそのままなんざ、沽券に関わるだろうがよ。 それでもこの人がイイってんなら結局仕方ねェんだが、なんて考えていると、近藤さんは自身の着物の衿を、ぐっと開いた。 「この前、可愛い子ちゃんに掻かれてよう」 首を傾け、右肩へ続く肌を見せながら、近藤さんが思わせぶりな視線を送ってくる。 「色っぽいってな、こーゆー事?」 薄くはなっているが、そこには俺が吸った跡や、立てた爪痕がまだ残っていた。何が可愛い子ちゃんだ。バカ。おっさん。エロジジィ。二人きりとはいえ俺をそんな風に呼ぶなんざ、この人位だ。ちょくちょくこう、恥ずかしい事を言う。それでも。 こっちの様子を伺う近藤さんの目は楽しそうでからかうようで、少し、熱く潤んでいる。 クソ。……そんな顔が、好きだ、とか、思っちまう。 口角を上げた唇に目をやれば、衝動的に口付けたくなった。あの口に食い付いて貪って、これは俺の男だと、お前以外と寝てるんだと、見えない、存在もあやしい、俺以外の相手に見せびらかしたい。 俺だけのものにしたいと発作的に、世界中の人間に嫉妬する。 「跡付けられンの、嫌いかよ」 その気になった俺は妙に湿った、期待する自分の声が格好悪ィと自覚しながら、体を寄せ膝立ちになると、近藤さんの首に抱き付いた。 「いやァ。嫌いになれずに困ってるトコ」 言って、俺の頭撫でるみたいにしてくれる近藤さんと目が合うと、どちらともなく口付ける。 「……なら、このほっぺの跡が判んなくなる位、俺もアンタに、張り手お見舞いしてやろうかな」 熱い舌に口中掻き回される合間、俺がふざけてそう言うと、近藤さんは「そんなのやだ」と笑って囁き、指の跡の残る頬を、俺の頬に擦り寄せた。 |