「いいでしょ?」   


「スゲーよコレ! 超イイ!」
 そう言って近藤さんが目を輝かせ俺を見る。
 大型の電器店に「ちょっと寄りたい」と言われ立ち寄ったのが二時間前、パソコンから吸引力の変わらないただ一つの掃除機売り場へ行き、そーいやアレが、あ、これ新製品見た事ある、と引き回され、今はマッサージチェアに何故か二人して座っていた。
「ふわー。極楽ぅ」
 芯から幸せそうな声の近藤さんにおかしみを誘われながらも、俺も言葉にゃまったく同意だった。
「いいよなーコレ」
「ん」
 言葉少なに答えつつ、次の言葉を警戒する。
「……福利厚生にさァ」
「無理」
「えええええ?」
 即答した俺に縋るような顔を向けながら、近藤さんが傍に置かれた値段に視線を走らせた。俺でも近藤さんでも、その気になりゃァ、安くはないが買える金額なんだけど。組の来年度の予算は決まってるからもう無理だって。
 あーこの首筋伸ばしイイな堪んねーな。
 乱暴モン揃いの屯所に置いてぶっ壊されるの待つよりも、無料お試しで精々味わっとくのが吉ってもんだ。
「でも、イイでショ?」
「何が?」
 煙草吸いてェな。クソ、ここが店内じゃなけりゃ、なんて思いながら俺が尋ね返すと、近藤さんは「気持ちいいでしょ?」と唇を尖らせた。
「そーだな。買うかどうかはまた別の話だけどな」
 先月この人ァ、まーた刀に妙なオプション付けてやがったしな。暴力酒場の払いもあるし。
「いいでしょ? 買おうよ! スゲーよホラ36回払いとかあるしさァ!」
 キラッキラした目でそう言うと、近藤さんは首を傾げて「お願いっ」と手を合わせる。今日何度目だソレ。いちいち聞いてられるかコノヤロー。
 そうは思うが今日見た中の、薄型テレビや銅釜炊飯器よりは、ちょっと、イイ、な。
 オートコースの背中の機械が止まったところで、丁度いいやと立ち上がる。
「行くぞ近藤さん。煙草吸いてェ」
 その言葉にようやく近藤さんも席を離れた。
「なァなァなァ。もう悪さしねェからよう」
 歩き出す俺の袖を引き、こちらを覗き込むそのデカイ図体と言い分に、俺は堪らず吹き出してしまう。
「悪さってナンだよ?」
 ついつい声にも笑いが混じった。数え上げればキリがない。アンタの中ではどっからどこまでが悪さなの?
「そりゃァ、昨夜のアレとか?」
 目の色にちらりと夜を滲ませる近藤さんの二の腕を、俺は咄嗟にゴツンと打った。
「イッタ! ちょ、だからもうしねェってばァ」
「うるっせ! とっとと歩け!」
 大袈裟に腕を擦りながらニヤニヤしている近藤さんを尻目に、俺は自分の顔が赤いだろうと自覚しながら、どうしようもなく喫煙所を目指す。

 馬鹿で助平で変態で、実際悪さばっかするんだけど、畜生。……言いたくないけど。悔しいけど。
「もーなんだよ怒んなって。愛してるってば」
「!」
 俺が夜、二人きりで追い詰められてようよう言えるそんな台詞を、この人はあっさり口にした。




おねだりで10のお題  3.「いいでしょ?」

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08.02.28