「そっちがいいの」
局副両長揃って登城した帰り、道の脇に続く菖蒲園ののぼりに「寄ってみねェ?」と近藤が土方を誘った。 梅雨の晴れ間に気分よく、たまにゃ風流も悪かねェと先に車を帰したものの、思っていたより広い園内と照りつける初夏の日差しに調子が狂い、花は確かに見事なんだが結局花より団子だなァと二人して苦笑しながら、中央の池の傍の休憩所へ立ち寄る。 「ちょっと便所行ってくら」 「ん」 頷き土方は、影に入りゃ風が気持ちいいんだけどなァと眩しく光を照り返す池を眺め、すぐそこまできている夏を思いながら喫煙コーナーへ歩を進めた。 壁に貼られたポスターで花菖蒲とアヤメとカキツバタの違いを特に興味もないままナルホドと読み終え、土方は煙草を捨て先刻の場所へ戻るついでにアイスコーヒーを二つ買う。 目に付くベンチにはどこも既に先客があった。 「トシ」 声に振り向けば、近藤が両手にソフトクリームを持っている。 「おみやげ」 言って片手をこちらへ差し出す近藤に、土方は少しぼんやりした目を向けた。 「あー。コーヒー。……飲む?」 力なく言いながら土方も、ん、と近藤にアイスコーヒーの入ったカップを持った腕を伸ばす。 「おっサンキュー!」 嬉しそうに弾んだ声を出すと、カップを受け取ろうとし、その為には片手のソフトクリームが邪魔と土方に渡そうと思えば、土方の両手がアイスコーヒーで塞がっている。 む、と事態に気付いた近藤の眉が難渋さにしかめられた。 テーブルがありゃいいんだが、と鋭い目付きで辺りを見回す近藤を、何その無駄なシリアス、と内心笑いながら見ていると、近藤の持ったソフトクリームが徐々に溶けている。 「あ」 「あー」 慌てて近藤は自分の口元に持ったソフトを舐めると、土方へ突き出した腕をそのまま、顎をしゃくった。 訝しげな表情を浮かべる土方に、「持ってるから。食って」と力を抜いた近藤が言う。 「このまま!?」 ここで? 俺ら帯刀してて制服で、アンタデカイし有名人だし、え、結構目立つと思うんだけど。 怯む土方を「ホラ溶けてる溶けてる伝ってる」と近藤が急きたてた。 いやソレどうなの、アリなのか? とためらってはみたものの、実際溶け始めたそれを目の前に出されると仕方なく、せめてと広場には背を向け、影になるようにしてかぶり付く。 自分の分のソフトクリームを満足げに食べながら「トシ」と近藤が声をかけた。 「そっち。頂戴」 「ん?」 こっち? とアイスコーヒーを差し出すと、近藤は土方が持ったままのカップのストローに口を付ける。
なんだかなァ、と気恥ずかしく思いながら、土方は近藤の指に伝ったクリームを、ぺろりと舐めた。
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