これからも


「んっ……。あ、そこ、いい……」
 横たわりくぐもった声を出す近藤を見下ろすよう、馬乗りになりながら土方が口元に笑みを浮かべる。
「ここか?」
 言われた場所を素直に触れてやると、近藤は再び喉の奥で唸り声を上げた。
「ヤベェ。……そこ、それ、イイ。最高」
「なんて声出してやがる」
 小さく噴き出しながらも、土方はリズムをつけて調子よく、近藤の腰を揉み解す。
 近藤の誕生日である今日は、話の流れで土方がマッサージをする事になった。
「背中。アンタ、バキバキだぞ。本職んとこちゃんと通えよ?」
「んー」
 どちらかといえば近藤の方から土方をマッサージする事の方が多い。スキンシップの一環なのだろう。普段と逆のこの状態は土方には中々楽しかった。
「そういやアンタ、鉄之助に何か言ったろう」
 ぎゅ、と背骨に沿って指を押し当てながら土方が尋ねる。
「ああ。テメーの素性をえらく卑下していやがるからよ、オメーの生い立ちをちょいとな。……勝手に話しちまってすまねェ」
「べつに。俺の生まれなんざ隠し事でもなんでもねェ。アンタが謝る事じゃねェさ」
「そうか? ならいいんだけどよ。……知ってっか? 俺の理想はオメーなんだぞ」
 敷いた布団にうつ伏せたまま、いけしゃあしゃあと言ってのける近藤に、さすがの土方も噴き出した。
「そうかい。そいつァご丁寧にどうも。……サービスしとくよ局長さん」
 言うと土方は近藤の背中を強く押す。
「おおおおお。そこ、スゲー。効くー」
「夜中に大声出すんじゃねェ」
 戯言まじりにマッサージを続ける内、うっとりと近藤は目を閉じ、暢気な声を出す。
「オメーはさ、強くなったじゃねェか」
「何?」
「理想なんだよ、理想。理想の人。オメーになりてェ訳じゃねェけど、俺の好きなタイプなんだ。強くなりてェって努力して、ちゃァんと強くなってんの。だから鉄のヤローにも、オメーを自慢してやりたくってよ」
「どうした。えらく褒めてくれるじゃねェか。そんな言葉がなくたって、きっちりご奉仕してやってンだろ?」
 笑いながら土方は、近藤の尻を思わせぶりに揉んでみる。それに近藤は慌てたように鼻を鳴らした。
「バカ。そんなんじゃねェよ。まあご奉仕の部分はこの後、期待してねェでもねェんだが」
「バカはどっちだ」
 ぺちりと尻をひとつ打つと、土方は体を伸ばし、近藤の背中の上にのしかかる。まだ室内は扇風機が回っているが、着物越しに触れる肌の熱は、双方に心地よかった。
「おお? ご奉仕タイム突入か?」
「うるせェ」
 軽口を叩く近藤に構わず、しばらく土方はそのまま体を重ねていたが、やがて「重いだろ」と呟き身をずらす。
 隣に横たわる土方へと寝返りを打ち近藤が、腕を伸ばす。土方が素直に距離を詰めれば、今度は近藤の胸の上へと重なるように体を引き上げられる。
「重てェ、なァ」
 土方を抱き締めながら、近藤がぽつりと口を開いた。
「なんだよ。今はアンタが乗せたんだろうが」
 鼻白んだ土方が、腕を離せと小さく眉間に皺を寄せる。
「いいじゃねェか。もうちょっとこのまんま付き合えよ。重いもんでも担いでいなきゃ、俺なんざペラペラの薄っぺらで、どこに飛んでっちまうか判んねェ。……俺に根っこをくれて、シャンとしてろって力をくれてんなァお前だよ」
 武州の田舎から出てきて、血生臭い騒動や、上官どもの当たりの強さに、うんざりした事がないと言えば嘘になる。
 それでも逃げずに大江戸の地にとどまれたのは、彼を信じ、共に汚れ仕事に手を染めながらも、強くなりたいと語った、あの頃の言葉通りに折れない強さを手に入れようとする土方がいたお陰だった。
 未だに自分のなりたい何者かになろうと、隣で共に、必死になってあがいてくれる男がいるという事が、近藤の追い風となる。
 この男が大将と見込む男でありたいと、自分への理想を高く持つ事ができる。
「……アンタ悪いモンでも食ったのか。それともアレか、誕生日ってんでまたひとつ年寄りになるって気弱になってんのか?」
「んまァ失礼。なにその言い種」
 気弱になった訳じゃねェ。その逆だよと言い聞かせるのも面倒で、近藤は土方の髪を撫でると、口付けを誘うように唇を軽く尖らせた。




 近藤さん誕生日ネタ、5回目ー!

誕生日らしさは、やはりほとんどないけれども。
2011年は近藤さんバスデ直前のジャンプで
トシさんの過去話がきたよという記念。
近藤さんお誕生日おめでとうおめでとう!
これからもトシさんと末永く仲良くねっ。

11.09.04.UP