一人楽しみ


 帰ろうと駅へ向かう途中、池上は海岸の砂浜に、見知った姿が座るのを見た。
 自分は部活を引退した身だが、今はテスト期間だ。あそこで砂に座るツンツン頭が仙道であってもおかしくはない。
 多少曇っているとはいえ暑い中、一体なにをしているのか。好奇心に駆られ池上は、久しぶりに砂浜へと足を向けた。
「仙道? なにやってんの」
 見れば仙道は足を広げて砂地に座り、前にアイスの棒を立てた砂山を作っている。
「あ。池上さん」
 こちらの姿を認めて、仙道はにっこりと笑いながら軽く会釈をする。首筋からは夏の汗が伝っていた。
「誰か、待ち合わせ?」
 それにしても日陰で待ちゃぁいいだろうに。呆れたような声を出す池上に、仙道は「いえ」と小さく断った。
「結構今、いい勝負してんすよ。ナカナカ白熱」
 言って砂山に向き直った仙道がそっと片手で砂山を崩していく。
「……棒倒し?」
 え。まさか、見えないお友達と遊んでるとか言うんじゃねーだろーな?
 びくりと肩を揺らした池上は、腹になにかを抱えておくのは気分が悪いと、はっきりそのまま尋ねてみた。
「あはは! なんですかそれ!」
 仙道の屈託のない笑い声にほっとして、つられるように池上も笑う。と、仙道が言葉を続けた。
「今ね、左手の三勝二敗なんすよ。右手のヤロー、どうも焦りっぽくて深いとこまで攻めちゃうんですよねー」
「……え?」
 その発言によくよく見れば、なるほど、仙道は片手ずつ砂山を削っている。
「オレとしてはこのまま、左手逃げ切り五勝なるかって思ってんですけどね」
 傍の砂地をよく見れば、確かに左右の文字の下に、正の字が書かれている。
 汗を浮かべながらテスト期間中、いくら部活がないからといって、ここで一人で棒倒しで遊んでいるのか。
 正直、訳がわからないとは思ったが、次の電車がくるまで、まだ時間はある。
「よし。じゃあオレ、右手応援する。負けんな右手。勇猛果敢だ」
 制服姿も構わずに、熱を持った砂地に尻をつけ、握り拳を上げながら池上が声援を送る。
 その様に仙道は目を輝かせ、軽く唇を舌でを湿らせると、目の前の砂山に集中した。






13.7.5 日記にUP

仙道は一人遊びも得意。
池上さん、大好き!

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