BARカナガワへようこそ パラレル。 --- 二丁目のバー、カナガワ。ここは寂しい男たちがほんのひと時、恋という名の夢を見る場所。 「いらっしゃ……なんだ三井、またきたのか」 「うるせぇ。いつ潰れるか判んねぇから、お前が中でのたれ死んでねぇか覗きに来てやってんだろーが」 バーのママの赤木は、オレの高校時代からの友人だ。だからこんな軽口も叩ける。 二メートルに近い大男の赤木がママだなんて笑っちまうが、こいつはこの図体で綺麗好きで、店もそう大きくはないがそれなりに繁盛している。 自分で言うのもなんだが、オレは格好いい。女はもちろん、男たちもオレの、いわゆるビボーってヤツを放っちゃおかない。そんなオレのフェロモンにやられちまった男たちも、赤木が目を光らせているせいでぐずぐず言い寄ってこないのがこの店のいいところだ。 キープしてあるボトルから酒を注いでもらうと、オレは客の顔にさりげなく視線を走らせた。 見知った顔がひとつ、二つ。軽く手を上げ、離れた場所に挨拶しながら目をやれば、隅の方にそいつはいた。初顔だ。 髪を全体逆立てたその男は、物静かにグラスを傾けながら隣の男が話しかけるのに、そっと首を振ったり微笑んだりしている。 整った目鼻立ちといい、さりげなく腰掛けているだけでも判る姿勢のよさや体格といい、ヒナにはマレな、というかはっきり、場末にクジャクだ。 「ちょ、あれ誰だよ。よくくんのか?」 カウンターの赤木をちょいちょいと指で呼び、肩越しにこっそり親指でその男を指して尋ねる。 「ああ。この前魚住が連れてきてたな。それ以来ちょくちょく顔を出してる。アイツ落とそうってヤツは多いが、うまくはいかんようだぞ」 魚住ってのはオレも知っている。この先で朝までやっている小料理屋の主人で、赤木よりもさらにデカイ、オレからすりゃ怪物みてぇなヤツだ。 「へぇ。そりゃ落とし甲斐があるってもんだな」 ニヤリと口元を歪めるオレを見て、赤木がフンと鼻で笑った。 「無理だな」 「あ? なんだと? オレ様を誰だと思ってやがる」 っと、いけねぇ、コイツといるとすぐこれだ。今はこんなゴリラみてーなヤツと言いあいしてる場合じゃねぇ。 「アイツ、なに飲んでんだ。それのおかわり。オレの奢りだ。あ、オレにもおかわりな」 空にしたグラスに酒を注いでもらい、赤木が酒を持っていくタイミングを見計らう。そいつが顔を上げ、赤木にオレからだと言われたのだろう、こちらに向かい軽く酒を掲げてみせる。脈がないと諦めたのか、隣にいた男もそれで席を移って行った。 よっしゃ。今だ。 自分のグラスを持ち、そいつの隣のスツールへ体を滑り込ませる。 薄暗い店で三割増しかと思っていたが、なんのなんの、近くで見ればそいつは、極上の上をいくような男前だった。 「いただきます」 軽く言ってそいつは酒に口をつける。手慣れている。声のトーンもいい。ヤベェ。格好いい。もしかしてコイツがオレの王子様なのか? がっついちゃ駄目だ。ここはオレも余裕をみせてだな。 そんな風に珍しく慎重に、オレはまず、会話を楽しむことにした。 名前は仙道。いくらか話して、判ったことはそれだけ。それも本名かどうかなんて知らないし、どうでもいい。仙道は聞き上手だ。そのせいでオレも口が軽くなった。 「最近の男は不甲斐ねぇよ。オレみたいな男ひとり押し倒せねぇってんだから、まったく」 お前はどうなんだよ。オレの事、押し倒してみたくねぇ? そんな含みを持たせ、酒を呷る振りで目をやれば、仙道は軽く笑うみたいに目を細めた。 「判ります。オレもほら、ガタイでかいでしょ? そんだけでスグ抱いてくれって甘えてくる男ばっかりで。オレだって抱かれたいってーの。まったく、最近の甲斐性なしの男にはうんざりですよねぇ」 あっ。 ……そうか。こいつもオネエサンか。 「だっ、だよなぁ! ホントさあ、まったくさあ。……今日は飲もうぜ! 赤木、おかわりー!」 グッバイ、オレの恋心。 |
13.3.30 UP ウチでは珍しい三井受。 そういう問題かって気もしますが(笑)。 |