宮益×仙道 2


宮さんは将来お医者さんとかなってそう、というコメントを下さった方がいらっしゃって、そうよね宮さん賢い幻想は、あってもいいよね!?
と、非常に興奮して頭パーン。という訳でお医者の宮さん×仙道。

---
「みんな。今日は先生のお友達のバスケットマンが遊びに来てくれたよ」
 小児科医としての勤務時間を終えた宮益が、比較的元気な子供たちを集めそう言った。
「こんにちは。仙道彰です、よろしく」
 大きな背を丸めるようにして鴨居をくぐり、病棟内の遊び場へ現れた仙道の長身ぶりに、子供たちはいっせいに目を丸くした。
「スッゲー。でっけー」
「パパより大きい…」
 知らない大人の登場に戸惑う子供たちへ、仙道がにっこりと微笑みかける。
「ね、仙道。そこのガレージにリングがあるんだ。そこまで30分ほどならこの子たちの外出許可が出てるんだけど、ダンク見せてあげてくれる?」
「お安いご用ですよ」
 まとわりつく子供を左右それぞれの腕に抱え上げると、仙道は人懐っこい笑顔で宮益のあとを歩きリングのある場所まで辿りついた。
 子供たちを降ろし、宮益からボールを受け取ると感触を確かめるように何度かドリブルをし、仙道がリングを目指し走り出す。
 仙道が宙を駆けるように空を舞った。瞬間、時がとまる。次の一瞬にはボールがリングに叩きこまれていた。
「わあぁっ」
 子供たちの歓声に、宮益ははっと我に返ると、上気した顔で誰よりも大きな拍手を送った。
「すごいすごいすごい!」
 周囲では子供たちが一緒になって手を叩く。
 仙道はボールを拾うと、軽く腰を屈めその子たちとハイタッチを交わした。
「すっげー! オレも今のやりてぇ!」
 目を輝かせた男の子に、仙道は「いいよ」と笑いかけ、その子を肩車で担ぎ上げる。
「ボールしっかり持って。ハイ、リングの真ん中にーぃ、叩きつける! OK、いえーい」
その二人の様子に自分もやりたいと騒ぎだす子供たちを仙道は順に抱き上げ、時々は肩車で次々にゴールを決めさせる。
 子供たちはすっかり興奮し、仙道の長い足にきゃあきゃあと絡みつく。
「はーい。みんな、そろそろ戻るからね。あとは室内で遊ぶよ」
 宮益がかけた声に、子供たちから不満と諦めの声が上がった。
「仙道。最後にもう一回」
 久々に見た間近での仙道のダンクに、一番喜んだのは僕だ。はしゃいだ自分を照れくさく思いながら宮益が、仙道へ、本日ラストのパスを送る。
 と、そのボールが宮益の元へ戻された。
「宮さん。ロングシュートお願いします」
「えっ」
 驚く宮益に、仙道が茶目っ気のある笑顔を浮かべる。
「みんな。宮益先生も学生時代、すごい選手だったんだよ。シュートするとこ、見たいよねー?」
「見たーい!」
 短時間ですっかり仙道に懐いた子供たちが、張り切った声を上げる。
「ええ? 僕は別にそんな……ハードル上げんなよぅ!」
 にわかに集まる子供たちの視線と期待に、宮益が頬を上気させた。しかし仙道の笑顔に乗せられるまま、両手でボールを弾ませながら、リングに正対しつつ距離を取る。
 こんな風にリングに向かうのはいつ振りだろう。今の自分にはバスケットよりも大事な、この子たちを早く元気にしたいという希望ができた。
 けれど、自分はこの感触を覚えている。ボールが弾む音を、誰に無理だと言われても意地で続けた、あの練習の日々の熱を、バスケットが好きだという情熱を、覚えている。
 駐車場の隅に置かれたリングで、地面にはラインなどなかったが、宮益は感覚で覚えている3Pのやや後方、それこそ高校時代にひたすら練習を繰り返した距離辺りに立ち、すう、と息を整えた。
 シュッ、と音もなく放たれたボールが、そのままリングへ吸い込まれる。
「すごーい!」
「センセー! オレも、オレも練習したらそんな遠くからボール投げれる? ゴールできる!?」
 不意に現れた、いかにもな大男の仙道よりも、これまで身近で接していた体育会系とは言い難い体型の宮益がロングシュートを決めたことに子供たちは目を剥いた。
 彼にできるのなら、いつかは自分も、と実感できたのだろう。
「注射が我慢できて、あとそうだな、100日くらいお利口にできたらね」
「えー。100日かよー」
「ボク注射平気。お利口にできるもん。ちゃんと先生のいうこと聞く。そしたら、ね、先生今のシュート教えてくれる?」
「ちゃんとお利口にできたらな」
 興奮が収まらない様子の子供たちをなんとか宥めながら病棟へ戻り、あとを任せると、宮益は仙道と一緒に帰る為に車へ乗った。
「遠征帰りで疲れてんのに、今日、ありがとな」
 ハンドルを握りながら宮益が、横目でちらりと仙道を窺う。
「いいえ。楽しかったし。みんないい子だったし。宮さんこそ……」
「アッキー」
「ん?」
 言葉を遮られた仙道が軽く首を傾げると、宮益は視線をフロントガラス越しの道路へ向けたまま、唇を尖らせる。
「『アッキー』と『義くん』だろ。……二人の時は」
「あ」
 そうだった、と頬を多少赤らめながら仙道が隣を見れば、宮益は自分のセリフに真っ赤になっていた。つられるように仙道も、頬が熱くなる。
「……義くんこそ、ちゃんと家、帰ってます? 目の下、結構クマ凄いっすよ。オレね、遠征先でうまそうなものいっぱい買ってきた。今日義くんと食べれたらいいなって。だからねぇ、時間があるならオレのマンション寄って行きません?」
 狭い助手席で、長い足を窮屈そうに収めながら仙道が誘いをかける。
「いいの? やったあ」
 言葉こそ無邪気だが、宮益の口調は奇妙に硬い。互いに赤くなったままの頬が、食事だけでは済まないだろう久々の逢瀬を実感させる。
 ごく短時間の遊びとはいえ、相手がバスケットボールに対峙した姿がそれぞれの脳裏をよぎる。
 抱きつきたいほど格好よかった。
 信号が赤に変わる。
 早く家につけばいいのに。
 二人の焦れる気持ちを溢れさせたまま、車は再び走り出した。



13.1.30 日記にUP
 この二人は、非常に照れくさい。

戻る