宮益×仙道 3


お医者の宮さんも最高グーですが、頭がいいけど貧乏ってのも萌えではないか。ああ萌えだとも。
というわけで貧乏弁護士の宮益と仙道ってのも、へへへ、中々いいんすよ。
デキてる前提でお願いします。

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「ありがとうございましたー」
 ラーメン屋の店主の声を聞きながら、仙道と宮益は色褪せた暖簾をくぐり外へ出た。
 日が暮れたあとの冬の冷気が、やたら油っぽい店内でまとった空気を洗い流すようで気持ちがいい。
 腹いっぱいの上機嫌で、仙道が軽く伸びをする。それを横目で眺めたあと、宮益はずり落ちてくる眼鏡の位置を直しながら声をかけた。
「いつもラーメンで、なんかごめんね」
「え、なんで? オレあそこのラーメン屋大好きですよ」
 隣を歩く宮益に合わせるように、仙道は首を傾げてみせる。その楽しげな表情に、宮益は救われる気持ちがした。
 金にならない弱者の弁護ばかりを引き受け、日々の暮らしがやっとの宮益を仙道は、ごく自然に助けてくれる。
 あなたはそのままでいいのだと、金なら自分がなんとかする、だから宮さんはやりたいことをしてくださいと言ってくれた仙道の言葉に甘えるままに彼のマンションへ転がり込んで、もう半年になる。
 金も時間もない宮益は、裁判の勝敗にかかわらず、公判が終わった時だけはあの安いラーメン屋で仙道に食事をおごる。
 今日は公判で、思い通りの結果が出せた。さっきのラーメン屋で仙道と分けた壜ビール半分も、宮益の気分をよくしてくれている。
 隣では仙道が笑っている。
 今日は、いい日だ。
 仙道の笑顔につられるようにはにかむ宮益に、もう一度幸せそうに微笑みかけた仙道は「でも」と言葉を続けた。
「そういえばこの前、オレ一人であそこで食ったんです。そしたらなんか、うまく言えないんだけど味がいつもと違うっていうか。盛りが違ったのかなぁ。あそこのオヤジさん、オレ一人だと手ぇ抜いてんのかな? ね、こういうのって法律でなんか罪になるの?」
「ええ?」
 並んで歩きながら宮益が見上げると、仙道の目が笑っている。仙道はいつもこうした軽口で、その場の空気を柔らかに保つ。
 軽口には軽口で答えなければ。
「そうだねぇ。でもそれはオヤジさんの問題じゃなくて、その、ア、アッキーが、僕がいなくて物足りなかったんじゃない?」
 まったく自分の柄じゃない。判っていながら宮益は、あえて決死の心境で口にした。
きっと爆笑してくれるだろう。それから少し同意してくれれば、なんだか嬉しい気分で今日という日を終えられる気がする。
 冗談だと判っていても台詞が台詞だけに、なんとも照れくさい。
 俯き加減で歩きながら宮益は、どきどきしながら笑い声を待つ。
 つい無言で早足になりそうな自分に気づき、ようやく宮益が顔を上げると、仙道は今きた道の後方でしゃがみ込んでいた。
「どうしたの?」
 宮益は慌てて仙道の元へ戻り、しゃがんだ姿勢で口元を覆っている仙道を覗き込んだ。
「なに? 気分悪い? どっか痛いのか?」
 救急車でも呼ぶべきか、とうろたえる宮益に、仙道は首を左右に振ってみせた。
「違います。……どうしよう、オレ、それマジかも」
「え? なにが?」
「だから。……宮さんが一緒じゃないから、メシの味も変わっちゃったのかな、って……」
 消え入りそうな語尾で呟く仙道の顔が、夜目にも赤くなっている。
「え? ……ええ?」
 瞬間、音が出そうな勢いで宮益も全身を赤らめた。
 互いに好きだと口にしたことも、体の関係もある。なのに今更、照れる仙道につられて恥ずかしさがこみ上げる。
「どうしよう。なんか、こんなの。……どうしよう。オレ、ホントに宮さんのこと、好きなんだ……」
 道端で小さくしゃがみ込み、独り言のように呟く仙道に、宮益の中で愛しさがあふれ出た。
「ね、早く帰ろうよ。こんなとこじゃ……」
 キスもできない。無意識でそう続けそうになり、宮益はぐっと一瞬口をつぐんだ。
「……ほら、風邪でも引いたら大変だし」
「……うん」
 決まり悪げに頬を赤らめた仙道が、しゃがんだままで両手を伸ばす。
「おんぶ。宮さん、おんぶして」
 甘えた声でそう微笑む仙道は、どきりとするほど可愛いかったが、宮益はぷっと噴き出した。仙道の目も笑っている。
「無理。世間には、愛だけじゃどうにもならないことがあるからね」
 わざと澄ました顔で言えば、軽く唇を尖らせたあと、仙道も笑って立ち上がる。
「えー? だったらオレがおぶりましょうか。んで、ダッシュで帰ってイイコトすんの」
 そう言いながら仙道は、澄ました顔でちゅっと唇を鳴らしてみせた。
 自分よりはるかに高い位置にある仙道を見上げ、宮益が笑いながら手を伸ばす。
 仙道の露悪的な部分に騙されて、照れた振りをしてやるのも、仙道を安心させる上で大事なことではある。だが不意に見せた純真さを、今日は見逃してやるつもりはない。
 徹底して可愛がりたい。自分だってちゃんと仙道に惚れているのだと、教えてやりたい。
「ヤダよ。家までの距離も大事なデートなんだから。ね?」
「……ハイ」
 差し出された手を掴んだ仙道は、治まらない頬の熱に戸惑いながら、宮益に引かれるようにして歩き始めた。




13.1.31 日記にUP


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