森重×仙道 3

バレンタイン間近の森仙。できてる。

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「悪い。遅れた」
 そう言って仙道が、ファミレスで一人座っていた森重の前に現れた。なんとなく眺めていた雑誌から目を上げると、森重が軽く唇を歪める。
「遅ぇよ」
 テーブルにはドリンクバーのものらしい、オレンジジュースのグラスのみが乗っている。
「悪かったって。メシは?」
「食った」
「そっか。あ、オレチョコレートパフェ」
 仙道が、やってきたウェイトレスに注文した。確かに店内は暖かいが、仙道がそんなものを食べているのを見たことがない。森重が内心珍しがっているのに気づいているのかいないのか、仙道は言葉を続ける。
「さっきそこで先輩に捕まってさ。約束があるって言ってんのに離してくれなくて。……遅れついでにもうひとつ悪いんだけど。このあとオレ、抜けていい?」
「あ?」
 言われた言葉の意味が咄嗟に判らず、森重が顔を上げた。軽く背を屈め、上目遣いになった仙道が身を乗り出すようにしてその顔を覗き込む。
「その先輩にどうしてもって頼まれちゃってさ。少し顔だけ出しに行かなきゃならなくて」
「……いいご身分だな」
 森重が仙道としていたこの後の予定は、ただ待ち合わせ、飯を食ってから森重の部屋へ行く、それだけのことだった。
 元から大した約束だとは言えない。それでも待たせておいてその言い種かと呆れた森重が背もたれにふんぞり返るのに、仙道が片目をつぶり、拝むように片手を上げた。
「ちょっとな。借りがあるんだよ。埋め合わせする。……夜、行くから。サービスしてやる」
 口元に笑みを浮かべながら、仙道がその時を匂わせるように軽く目を細める。
 からかうなと怒る前に、本能的に森重の喉が鳴った。決まり悪く目線をそらし、森重はこれみよがしに大きく鼻息を吐き出した。
「……勝手にしろ」
「じゃあ夜にな。あ、ここ払っとくから」
 にっこり笑って立ち上がった仙道が伝票を掴むのを森重が、もう行くのかと呼びとめる。
「あんた、パフェは」
「ん? ああ。もうすぐバレンタインだろ。お前食え。残すなよ?」
 じゃあな、と声をかけ、もう一度楽しげに笑いかけると、仙道は森重の肩を軽く叩き、その場を去って行った。
「お待たせ致しました、チョコレートパフェのお客様……?」
 注文主がいないことにためらいながらも、ウェイトレスがパフェを運んでくる。
 現物を前にキャンセルをするのも大人げない。仕方なく自分の前に置いてもらうと、森重はさりげなく店内を見回した。
 幸い知りあいはいないようだが、自分一人でこれを、ここで食えというのか。
 なにがバレンタインだ。嫌がらせに決まっている。
 自分の厳つい風貌が周囲にどう見られているかを判っている森重は、脇に置いていた帽子を深くかぶり直し、覚悟を決めてスプーンを持つ。
 夜。どんなサービスをしてもらおうか。腹立ちまぎれにそんなことを思いながら森重は、なるべく早く食べきってしまおうとパフェを口へと運び続けた。



13.2.12 日記にUP


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