なんちゃって


 テスト期間の部活停止を利用して、陵南バスケ部の二年生のスタメン四人は図書館にでも行こうかということになった。その前に腹ごしらえと寄ったファストフードの店で、勉強は彼女とするんじゃなかったのかと尋ねられた越野がぼやいた。
「だあぁっ。畜生。なに考えてんだかわっかんねーよ、女ってよー」
「約束してなかったのか」
「や、今日のことじゃねーよ。夏休みのことでさー。練習あるからあんまり遊びに行けねーって言ったら拗ねちゃってよー。「バスケしてるとこが好き」じゃなかったのかよー」
 こぼす越野に福田と植草が「のろけか」「だな」と頷き合い、仙道が笑う。
「んだよ、笑ってんじゃねーよ仙道。お前もあんだろそういうの」
 機嫌の取り方を教えてくれとふてくされながら、越野が口にくわえたストローの端を噛む。
 話を振られた仙道は、軽く眉根を寄せた。
「えー? わっかんねーよオレだって。女の人ってさーなんで「いつまでもこんなおばさんとつきあってちゃ駄目よ」って言うくせに、別れようって言ったら「死んでやる」になっちゃうわけ?」
 理由判る? と仙道が、首を傾げて対面の福田と植草を窺った。
「仙道……」
「それは……」
 隣で越野はポカンと口を開けたまま固まっている。
「ん?」
 どうしたんだと瞬きを繰り返し、仙道がきょろきょろと周囲を見渡す。
 福田が、つばを飲み込み、意を決したように続きを促した。
「それで、どうなった?」
「ああ。裸で包丁持って追っかけてきて、パトカーに乗って行っちゃった。それっきり知らないなぁ」
「……」
 どうなったんだろうね、元気かなぁ。
 遠い目をする仙道を横目に、辺りの空気は一気に冷えた。
 と、仙道がトレイに広げられたポテトをつまみながら、ぼそりと呟く。
「……なーんちゃって」
「えっ」
「は?」
「なんだそれ、なんちゃってかよ!?」
 にこにこと微笑む仙道につられたように三人が、乾いた声で大きく笑いだした。
「んっだよもー! おめーが言うとシャレになんねーっつの!」
「仙道ならあるかと思っちゃったよ」
「一瞬信じた」
 固まっていた空気を払拭するようにことさら騒ぐ三人を尻目に、仙道は最後のポテトをオレンジジュースで飲み込んだ。
「なんちゃって……だったらいいのにねー?」
 独り言のように漏れた仙道の言葉に、再び周囲が凍りつく。
「え。……え?」
 なんちゃって、なら、いいのに? それってつまりお前そんな。いやいや、どっちがホントだそれ。一体なにが本当だ。
 軽くパニックを起こす面々ににっこりと微笑んで、仙道は鞄を持って立ち上がる。
「さ、いこーか」
 自分のトレイをさっさと片づけながら、仙道が、はっはっは、と声を上げて笑った。





13.07.02 

なんちゃってですよ?
というか、作中の仙道の話は「ぶっせん」って漫画にあったネタ。
仙道とおばさんってあんまり似合わない気もしますが、生々しくてドン引きで面白かったので(笑)。
まぁ、なんちゃってなんですけども!


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