陵南バスケ部で「萌え」2


「よーし10分休憩。水分と一緒に塩飴も食っとけよ」
田岡の号令に陵南バスケ部員たちは、汗だくの体を引きずってコートの端へとそれぞれ散った。
タオルで滝のような汗を拭いながらも各自、持参した水筒やクーラージャグのタンクから水分を補給し、言われた通り飴玉を口に入れる。
暑い暑いと言いながらも部員たちにはまだ、元気が残っている。
「さっきの仙道のパス、超萌えだった」
「サンキュ。植草から福田のアリウープもすごかった。萌えた」
笑いながら話している、近頃部員たちの間ではやっているらしい言葉に、田岡が不思議そうに尋ねた。
「その、萌えって子は今はやってるアイドルなのか?」
「はい?」
聞けばどうやら「萌え」という人物がいると勘違いしていたらしい田岡は、違うと説明されると笑い出した。
「そうか。オレが好きなモエというと、山口百恵だったんだがなぁ」
懐かしむよう口元に笑みを浮かべ、遠い目をする田岡に、仙道が「知ってます、その人」と声をかける。
「あれでしょ、ピンクレディの人でしょ?」
「あ?」
今度は田岡が口を開け、言われた言葉の意味を考えて動きをとめる。今、自分はなんの話をしていただろう。
「ばっか、ちげーよ仙道。山口百恵ってのはあっちだよ、スーちゃんランちゃんモエちゃんの人」
「ああ」
得意げな越野の説明に、仙道が素直に頷いている。
これは、どういうことだろうか。
いわゆるボケという状態で、自分のツッコミを待っているのか。からかわれているのだろうか。それともただ単に本当に知らないだけか。真実を教えるのは簡単だが、それはボケ殺しと呼ばれやしないだろうか。
対処に戸惑う田岡を尻目に、福田が越野と仙道へ向かい、首を左右に振っている。
「山口百恵は中三トリオと呼ばれたことはあるが、基本的にソロだ。ピンクレディはミーちゃんとケイちゃんで、スーちゃんランちゃんミキちゃんがキャンディーズだ」
福田の言葉に仙道と越野は「聞いたことがある」「そうだったそうだった」と頷いた。
とりあえず自分がからかわれていた訳ではないらしい。ほっとした田岡が福田に声をかけた。
「詳しいな、福田」
「昭和歌謡。萌え」
コクリと力強く頷く福田の、萌えという言葉の意味は田岡には、いまだよく判らなかった。
「萌え、か……」
とりあえず褒め言葉らしい。それで十分じゃないか。
「よーしお前ら、休憩終わり! 次3メン、萌えで行くぞ!」
田岡の掛け声に、陵南バスケ部は「おお!」と笑顔で答えた。




13.7.9 日記にUP

高校生とコミュニケーション取ろうと頑張る茂一。
ガンバレ茂一、超ガンバレ。

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