チラノ2


「オメーも十分ティラノっぽいだろ」
 桜木が言うと仙道は、驚いたように眉を上げた。
「えー? 考えたことねーな。オレがチラノ?」
「バスケん時なんか十分肉食じゃねーか」
「まあバスケん時はねぇ」
 オレは首長辺りかと思ったんだけど、と呟く仙道に桜木が「それだって魚食ってんだから肉食だろう」と言うと仙道は「草食だろ?」と瞬きを繰り返す。
「魚食ってなんで草食なんだよ?」
「違う違う。草を食ってんじゃなかった? 首長って」
「そりゃあれだろ、四本足の。首長ってのはアレだよ、足がヒレになったやつ」
 横向きに寝そべり顔を見合わせながら、桜木が手の平をヒレに見立ててひらひらと振ってみる。その仕種がなんだか可愛らしいと仙道は微笑んだ。
「あー。いるねそんなのも。え、じゃあ首長竜って二種類あんの?」
「そうなんじゃね? ……忠なら知ってるかもな。聞いてみるか」
 身軽に体を起こす桜木の腕を、仙道が慌てて引いた。
「今? バカ何時だと思ってんだよ」
「まだ11時すぎたとこじゃねーか」
「急いで聞くことでもねーだろ」
「そーだけどよ」
 お前が気になってるみてぇだから人が折角、と口には出さずに桜木が、唇を尖らせる。すると仙道は小さく笑って腕を広げた。
 再び体を横たえると、招かれるままに仙道の腕の中へと入り込む。抱き合い、仙道の背へ手を滑らせながら桜木は目の前の鼻の頭に唇を寄せた。と、仙道がくすくす笑い出す。
「なんだよ?」
 むっとした表情の桜木へ、仙道が宥めるように唇を鳴らして軽くキスをした。
「チラノがバスケしてるとこ想像しちゃった。はは、スゲー下手そう。けど他のやつらが四本足のとこ二足歩行ならドリブルできるし、うまいのかなぁ」
 言ってははは、と自分で笑う仙道へのしかかり、桜木が唇を重ねる。
 歯を割り舌を絡めると、しばらくして仙道は首を捻った。
「んっ。だから。もう今日はしねぇってば」
 咎めるような上目遣いで下から見上げる仙道に、落ち着いたはずの情欲が煽られる。
「やらせろなんて言ってねぇ」
「そんなキスして? よく言う。ホントにしねーんだな?」
 不審げな目をしていた仙道に、それならと再び唇を許された桜木は、相手に教わったキスを繰り返しながら、日付が変わるまで我慢できるだろうかと考えていた。





13.6.22 UP

恐竜に詳しくはない。

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