フェチ


誰もいない部室で魚住は一人、暮れた日の闇にまぎれて仙道のロッカーに額を寄せる。
昼間見た、鮮やかな姿が脳裏を離れない。なぜあの男はああも見事なんだろう。
「仙道…」
その時、ふいに扉が引かれた。明かりをつけられると、暗闇になれていた魚住は目をしばたたかせる。
「魚住、さん?」
聞きたくなかった。今は。
嘘だ。いつだって待ち望んでいた、その、声。
清浄さに身を焼かれる汚泥のように、魚住はそっと顔を向ける。
「仙道」
首にかけたタオルで汗を拭いながら戸口に立ち尽くす仙道に、魚住が静かに声をかけた。
明かりもつけず、祈るように仙道のロッカーへ手を、額をつけていた自分を、どう言い訳できるだろう。
言葉を探し、戸惑う魚住へ仙道が近づいた。
「魚住さん。……オレの足、触ってもいいですよ」
仙道の口元にはいつしか笑みが浮かんでいた。練習や試合中にみせる、陽気なものではない。淫靡な、影を秘めた笑みだった。
「せ、仙道……」
差し出された仙道の膝に、内腿に、足首に、ふくらはぎにと視線を這わす。
「仙道、オレは……」
熱に浮かされたように言葉を探す魚住を、仙道が再び消したのだろう、暗闇が覆う。
残像のように刻み込まれた仙道の足を求め、魚住はふらりと一歩踏み出した。





13.7.4 日記にUP

たまには魚→仙。
たまには耽美。

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