Who's fool uさま作 スポーツバッグを開いた仙道は、ぞんざいにしまわれた服や資料の陰に、隠れるようにちらりとのぞくピンク色を認めて、荷ほどきにかかった手を止めた。おのれのワードローブの中であまり見覚えのないその色に、仙道の脳内に疑問符が浮かぶ。 「なんだこれ?」 引っ張り出して現れた、折り目正しく縮こまったものの正体にようやく思い当たって、仙道はびっとそれを引き伸ばした。全体がピンク色に染められて、中央には達筆でふとましく地名が書き込んである、その提灯。 指先でぶら下げて眺めてみれば、そのピンク色は自分の部屋には全くもって馴染まずに、思わず仙道の顔に笑みが浮かぶ。 「だっせー」 仙道の脳裏に、提灯を差し出した森重の、ぶっきらぼうな顔が思い浮かぶ。傍には青いものもあったというのに、きっと女性向けに作られたこのピンク色の提灯を、一体何を考えて選んだのだろう。自分よりもでかい巨体の、不遜な顔をした森重が、ピンクの提灯を摘まんで悩んでいるところを想像して、そのシュールさに思わず仙道はぶぶっと吹き出した。 「馬鹿じゃねーの」 それならばと、自分の買った青い提灯を差し出した時の、惑いながら受け取った森重の姿がちらつく。 (一度はいらないなんて、言ったくせに。笑って差し出されれば拒まないなんて、もしかして実は気のいいヤツ?) 思った瞬間、森重の普段の所業を思い出し、それはナイナイと仙道は即座に打ち消した。それでも、たまに見せられる、どこか的外れな森重の気遣いに驚きながら、楽しんでいる自分もいる。 悪い気はしなくて、カーテンロールにでもぶら下げてやろうかと提灯を手に窓際を振り向けば、窓ガラスに映った自分が、ピンクの提灯をぶら下げてやけに嬉しそうに笑ってるのを見つけて、仙道は我に返った。 「…やーめた」 拗ねたように口を尖らせて、提灯をぽいっと床に投げると、仙道はベッドに身を投げた。 こういうのは自分らしくない、と仙道は思う。人から貰った物を側に置いておいたりとか、それを見て何かを思ったりだとか。 思いはしがらみになってしまうだけだと、それを抱えてしまえばいずれ身動きとれなくなるのだと、今まで自分は、一瞬の好意を受け取っては、そのほとんどを置いてきた。 傷つけたってなんとも思わないような奴だから、俺のことを利用するだけの奴だから、森重と関係を持ったのだというのに。 お互いに何も期待しないはずだった、なのに、些細な森重の言動に、近頃なにかが揺らいできている。仙道は、胸のざわつきに眉を顰めた。 (こういうのは、嫌だ) プリンだとか。ピンク色の提灯だとか。 そんな玉じゃない癖に、変な気遣いなんてするから、きっと調子が狂うのだ。それが気に入られるために為されたものなら、容赦無く切り捨てられるというのに。あの男はそんなつもりも毛頭ないのだろう。 不器用に為されたそんな気遣いが、自分の作る厚い壁にとってのただ一つの急所なのだと、仙道はその壁を乗り越えられて初めて知った。そして当の森重は、きっとそんなことには気付いていないのだ。 「…あーあ」 視界の隅に映るピンク色がやけに鮮やかで、仙道は、逃げるように寝返りをうった。 --------------- 華麗に翻弄する仙道はどこへ… 仙道「べっべつに提灯見てあんたの事思い出したりなんかしないんだからねっ!」 森重「(´・∀・`)」 |
2013/5/21 UP 日記でコクミンがプリンや提灯なんて適当に垂れ流していたら、 uさんが拾って、わざわざお話にして下さったよ! やったね! 自作以外で、森仙で作品になっているの初めて見たよ。 あんまり嬉しいから、ウチのサイトにも飾らせて下さいと頼みこんで許可をいただきました。 またこれ、内容も素晴らしいでしょう。 仙道の可愛さとほだされていく感じと森重の不器用さが。大・好・物ですっ! 可愛いよー。こんな理想の森仙が読めるなんて、嬉しいよー。 凄い事ですよ、これはもう! ついでに最後の森重の顔文字も可愛すぎて反則です。大好き。 uさん、本当にありがとうございます!! そんな素敵なuさんのサイトはこちら。「Soup」さんです。 |