ただただすべてを・14

「……悪ィ」
 近藤のその言葉で、部屋に沈黙が訪れる。
 静寂は余計な事ばかり考えさせるから、まったく、ろくでもない。自分の体に回された近藤の腕を掴むことも出来ずに、土方はひっそりとした空気を破りたくて呟いた。
「なァ。俺頭悪ィから、判んねェや。これからどうすりゃいいの?」
「そりゃ」
 言って近藤も暫く考え込む。
「……お前が嫌じゃなきゃ、俺にキスするといいんじゃね?」
「……無理」
「嫌かよ!」
「だ、違、無理だろ!」
 嫌とかそんなんじゃなくて、そんなだって、どんだけ俺が今まで夢想して挫折してきてると思ってんだ。いきなりハイそうですかでそんな、どうでもいい奴ならともかくなんでアンタにキ、……そんなん出来るかァ!
 むーんとその様子を見ていた近藤は、指先を土方の唇に触れさせると、その指を自分の唇に当て、土方の耳元でちゅっと音を立てる。
「トシの真似ー」
「あァ?」
 近藤は、首を捻りこちらを伺う土方を覗き込んだ。
「さっき俺が寝てる時。しただろ」
「……!」
 意地悪ィなアンタ!! いつから起きてやがったコラァ!
 じたばたと身じろぐ土方を、近藤は体重をかけて抱え直す。
「逃げたい?」
 その言葉にぴたりと土方の動きが止まった。
「逃げた方がいいかもよ。俺ホラ、追いかけるの慣れてるし」
「……追いかけて、くんのかよ」
 あ、やべ、声震えてら。なんだコレ。畜生、現実だコノヤロー。
「そりゃお望みなら地の果てまでも」
 何しゃあしゃあとそんな事。クソッ。勘弁してくれよストーカー。ああもうまったく。追っかけられたら、アンタが相手ならそんな。……逃げきれねェだろバカヤロー。
「近藤さん」
 その声に近藤が腕の力を緩める。
 土方は近藤の腕を掴み、自分の体を向き合わせると、ぎゅ、と近藤を抱き締めた。
「トシ……」
 目を閉じ、顔を寄せてくる近藤を、土方は思いきり突き飛ばす。
「おわっ」
 近藤がよろめいた隙に土方は立ち上がった。
「メシ。そろそろ行かねェと」
 そんだけ!? キスは? と追いすがる近藤からさっと逃れ障子を開く。
「うるせェ。知るか!」
 小声で言い放つと、土方は身を翻し、どたどたと足音を響かせ、部屋を出て行った。
 その様子がおかしくて、近藤はくすくすと忍び笑いを漏らす。
 あー明日っから、違うか、この後食堂で、アイツ、どんな顔してんだろ。
 ひとしきり小さく笑うと、近藤は、ふう、と安堵の溜息を零した。
 気ィ抜けた。なんだ。簡単じゃねェか。
 先の事ぐずぐず考えんのはもうやめだ。誰かになんか言われたらそん時ァそん時だ。何か手に入れてそれが抱えきれねェ位でかいんなら、でかい男になるまでだ。
 首を左右に振ると、ゴキッと小気味いい音がする。
 そん時ァお前はきっと黙って俺を支えてくれんだろ? そんな時でもお前はずっと、傍にいてくれんだろ? 
 なら、いいよな。
 こんな幸い、そうはねェや。
 とりあえずは腹一杯食って寝て、話は全部それからだと気合いを入れ直し、近藤も立ち上がった。



小説メニューへ戻る 戻る

07.05.13発行
001 Marshmallow Kick(完売済)より

こうして自分脳内の近土はくっついたんだよ、という根幹話。
オフでご購入いただいた方、今見て下さっている方、みなさま
お読み下さりありがとうございました!

よろしければご感想教えていただけると嬉しいです。

09.11.20〜12.03UP