怖じ気付く道義的野蛮人・4 告白というものはなんて身勝手な爆弾だ。まるで当て逃げだ。そう問題をすり替える事で辛うじて落ち着いた振りをした。筋違いでもなんでも彼女を非難する事で、俺は悪くないとその場を逃げようとした。 恐かったのだ。 彼女の強さが。彼女の勇気が。置いていかれる惨めな自分が。告白などと思いもよらない自分のあの人への恋心がバカみたいで、俺はここに立ち止まったままで、なのに彼女は言葉を俺に投げつける事で先へ進むのだ。結果がどうあれ俺が一歩も進めないでいる場所から、この地点からは進んだのだ。 人に悪く思われたくないと保身に走りそうな自分が嫌で、俺はわざと悪態を吐くように言葉をぶつける。 「しったこっちゃねーんだよ」 俺は彼女に何も約束なんてしていない。彼女は俺が誰を好きなのか判っていない。俺の事を判っていない。こんな酷い話、理解できる筈がない。それは彼女のせいじゃない。 「お前の事なんざ」 背を向けるのがやっとだった。俺が彼女に抱いていた同情という名の念は、俺を追い詰め彼女を傷付けただけだった。彼女に優しくしたのは俺の自己満足だった。自分の叶わぬ気持ちの重さに耐えられず、彼女の感情の揺れる様を見て、俺だけが苦しいんじゃないとどこかで縋っていたのだ。 彼女はいい人だった。何の罪もなかった。それでも俺は惚れる事ができなかった。それだけの事だ。それは彼女の罪じゃない。なのに何故そんな酷い言葉を浴びせられるのか。 もっとうまい言い方はなかったのか。動揺し言葉をぶつけた。一切合財放り出した。俺みたいな卑怯な男に惚れたというだけで、彼女は今後この日の事を忘れられずに過ごすのだろうか。 謝れ、と自分に思う。せめて謝れ。自分の為じゃなく、彼女の惚れた男がクズだったと思わせないようにしてやれと思う。一方で俺がこんな粗末な男だと露呈する事でアンタが他のいい人を見つけてくれりゃいい、なんて都合のいい事も思う。 彼女を幸せにしてやれたらいいのに。 彼女が幸せになれりゃいいのに。 自分の思いを口に出来た彼女の強さに、片恋の、勝手な、一方的な同士として敬意を払う。 俺なんざ、こんなクソッタレの自分に惚れてくれた相手にさえ、惚れた相手の名も言えねェ。 振り向かないようにと意識して歩いていた夜道を、いつの間にか俺は走っていた。 近藤さん。 その大事な人の名に、俺は祈る。 連れていってくれとは言わねェ。アンタはどこへでも好きなトコへ行け。そこが俺の行きたい場所なら、俺は手段は選ばねェ。必ずそこに行く。確認は取らねェ。待っててくれとも頼まねェ。 アンタはそこで光っててくれ。闇夜にだって探してみせる。 ただ太陽はそこにありゃいいんだ。 |