安心決定・5 その、邪魔な、認めんなァ癪だが実際まァそうなんだろうアンタの特別な男が、俺に「近藤さんに抱いて貰やいいだろ」と言う。 訳が判らねェ。 俺ァアンタに、抱いて貰いてェのかな? アイツは、近藤さんに抱かれて、俺に見えねェモンが見えてんですかィ? アンタとセックスってなァ想像した事ァねェし、想像してみても興奮なんざしねェんですがねィ。 アイツがアンタに抱かれてんのかと思えば、苛々するんでさァ。アンタに抱かれて、この神経がピリピリすんのが治まんなら、俺ァ、近藤さん、アンタになら抱かれてもいいと思ってるんですぜィ? 「俺の事、好きですかィ?」 「うん? 大好き」 そっと俺が尋ねると、近藤さんは俺が望む答えをくれる。 ありがてェやと緊張が軽く解けるのを感じながら、一方でそうじゃねェんでさァともどかしさが募る。 「俺も。俺も近藤さんに惚れてるんでさァ」 焦れて妙に切羽詰った格好悪ィ俺の声に、気付いてねェんだかとぼけてるんだか、近藤さんは静かな夜の声で囁く。 「そっか。やったね両思いだ。いい夢みようぜ」 そんな事言われてそのデッケー手で頭撫でられちまうと、好きだなァ、とまた思っちまう。 大好きですぜィ。 暗がりの中、近藤さんの顔を見ながらそう考えていると、俺は不思議な事に、眠くなっちまった。 はぐらかされた割りに俺ァなんでか気分がよくて、あァ、こりゃお天道さんのせいかと思い当たった。 まめに陽を当てているんだろってな、近藤さんのふかふかの布団は暖かくって近藤さんの匂いも意識しねェ位にして、近藤さんが傍にいて、ナルホド、今日は寝れそうな気がしまさァ。 夜で、今日も一日仕事があって、眠くなっても当然、そん位な事ァ俺にも判ってんですがねィ。 それでも俺ァ普段は夜、寝らんねェのが普通なんでさァ。 暗闇ん中じっと目を閉じて数時間、ようやく明け方近くにうとうとできて、夜番が戻る頃になんとか眠れるって寸法でねィ。真選組ができてから、つい万が一の襲撃なんざ考えちまって今じゃすっかり昼寝が定番でさァ。 俺が昼寝すんなァただ単に、その時間なら起きてるヤロー共が多いから、俺が神経尖らせ目ェ光らせてんじゃなくても平気だろィって思ってたんだが、そうか、俺ァ暗闇が恐かったのか。俺ァただ、太陽の下で眠りたかったんだ。 本当は、俺だって気付いてまさァ。情欲絡みで惚れた相手と添い寝して、ムラムラどころかいつもより却って眠いだなんてそんな筈あるかィって。だけどそれは、家族みてェに思ってるからとかじゃねェ。アンタは大事な唯一の肉親のおねーちゃんより特別で、だって俺はアンタを選んだんでさァ。俺をこの世に繋ぎとめてる最後の理性と執着を、誰にも擬似家族なんて脆い馬鹿げた言葉でくくらせやしやせんぜィ。 日の光ってなァ強力で、悪いモン全部焼き尽くし、俺はひたすら守られる。 太陽が俺を守るなら、俺ァそうだな、太陽隠す雲を吹き払う風神でも目指すとしやしょうかィ。そうすりゃいつでも、真夜中だっても、枕高くして眠れるってモンだろィ。 お日さんは明るくて眩しくて、目ェ開けてらんなくてそりゃァもう、眠っちまうしか仕方ねェ。だから俺は目を閉じて、うとうとといい心持ちになりながら、どうせなら体ん中の毒まで抜けてくれねェもんかとお日さんの匂いを胸にいっぱい吸い込んだ。 |
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08.05.04発行 008 晴ればれ より 「安心決定」(あんじんけつじょう) =浄土教で、阿弥陀仏の誓いを信じて、少しの疑いもなくなること。 転じて、信念を得て心が定まること。 近土好きの自分ですが、 近藤さんを大好きな沖田は、別枠で大好きだ! |