特別ハッピー! 「近藤さん。誕生日、どうしたい?」 夜、近藤の部屋で毎日の仕事の最終報告を済ませた後、座ったままのびをする近藤へ、タバコを吸いながら土方が尋ねた。 ようやく一日の仕事が終わりだと急須の出涸らしに湯を注ぎ、近藤が茶を入れる。 「んー? どうしたいって、どうすんの?」 以前近藤が「自分だけじゃ納まり悪ィや、なんなら毎月一回隊士の誕生会するか」と言い出した事がある。その時は土方により即刻却下をくらい、以来お返しだなんだときりがないとプレゼントの類も禁止されている。 「そりゃ。局長の祝い位は、やりてェんならやってもいいけど、って」 自身の作った法度が気になるのだろう歯切れ悪く、まるで口元を隠すように煙草を吸う土方の様子に、近藤は口元を緩めた。 「いーよ。別に、なーんもしなくていい」 大して色も出ない何煎目かの茶を土方の膝前の湯飲みにも注いでやり、こちらをじっと見つめるやや不服げな顔と目を合わせる。 「……何にもって訳にゃいかねーだろ」 短くなった煙草を消す為とでもいうように、ぷいと顔を逸らした土方の声が曇っている。 「なんで? お前が元気で俺が元気で無事誕生日ですありがとう、って、ああ、ありがとうの会とかどうよ。それなら誕生会とはちょっと違う?」 元々賑やかな催しは嫌いではない。それに自分の誕生日にかこつけてなら豪華な宴席とまでいかずとも、惣菜に色を付けるなり振舞い酒を配るなりして若い隊士一人一人とも言葉を交わす機会になる。それで皆の気分がよくなるのなら近藤は、宴会代が自分持ちでも構わないと、実は少し思っていた。 それでも土方の誕生祝い禁止令に大人しく従うのは、彼のその取り決めが主に、自分を気遣っての事と判っているからだ。 隊士達に声をかけるのは、毎日気付いた時にすればいい。彼らとて酒肴の為だけに働いている訳じゃない。 男だらけで、文字通り命をかけた第一級の危険仕事、「魅力的な職場作り」等と口にするのもおこがましいが、土方が決めた法度には、近藤もできるだけ従いたい。それが隊士の規範となる土方の生き様であり、更にその上、うっかりすると城詰めで、隊士達とはすれ違いの日々が続く局長の近藤が思う、理想だった。 局長にすげなく袖にされる法度に、そして副長に、平隊士の誰が進んで従うというのか。 「やっぱりアンタ、宴会とかしてーんだろ」 扇風機がかき回す風に前髪を揺らしながら、土方が軽く唇を尖らせる。 その顔の意味を、近藤は知っている。 これは、自省する顔だ。 土方は考えすぎる嫌いがある。それがうまく仕事に嵌まればいいが、プライベートでこちらを先回りして落ち込むのはナシだ、と近藤は殊更明るい声を出した。 「宴会万歳、毎日オッケーって言いたいけどさァ」 ぐっと親指を立ててふざけるように言うと、「でも毎日接待はキッツイな」と口の端を歪める。 「誕生日は接待入ってなかったろ?」 ぬるんだ茶を飲み、ちらりと上目で伺う土方に近藤が笑いかけた。 「だからいーよ。誕生日ってわざわざ宴会なんざしなくても」 あぐらをかいた膝に肘をつき、上体を斜めに傾げながら今度は近藤が土方を覗き込む。 「してェくせに」 「別に。宴会なんざ、誕生日にこだわる必要ねェだろう」 「じゃあ、どうしたいんだ」 「ん?」 「誕生日。……アンタ自分の誕生日だぞ。判ってんのか」 「え、何が?」 「だから! なんかしたい事とか、欲しい物とか。なんかねェのかよ」 「欲しい物? プレゼントも建前上は禁止にしちまってるしなァ。誕生日だからって考えちゃいなかったなァ」 ううん、と顎鬚をいじる近藤を見る土方の頬が、心なしか赤い。 これはアレか。ベタに「プレゼントはお前」って言っておくべきか。誕生日なんて気にせず、いっつもいただいてるんですが。当日はきっとお前が忍んできて、こねェならどうせ俺から行って、プレゼントだなんだ気にせずパクッといただきますなんだけど。 そう声をかけようかと近藤が笑いながら上体を屈めると、先に土方が口を開いた。 |