愛があったらしたってイイじゃん・1 -近藤- 湯に行っていたトシが隣の自室へ戻ってきた音を襖越しに聞くと、俺は「トシー」と声をかけ、仕切りを開けた。 「ん?」 布団出そうと押入れに向かっていたトシが、小首を傾げて俺を見る。 軽く手を振り、布団敷くのを続けてくれと合図すると、トシはそのまま腕を動かす。 風呂上りのトシってーのは、もの凄く、エロい。拭っただけの髪は後ろへ撫で付けてあって普段隠れてる可愛いデコが全開。冬でもやっぱり胸元ってのは必要以上にくつろげてあって、なにそれ。なんかもう、腹が立つ。湯冷めしちゃうでしょってそんな、それも心配だけどそうじゃない。そこじゃなくて、つまり。 大体トシは自分の魅力に無頓着すぎる。ツラがいいだとかってのはさすがに、真選組入る前から周囲の女にチヤホヤされて自覚あるみたいだけど、とにかくもう無愛想。あの綺麗な顔でにっこり笑って道のひとつでも聞きゃ、街の娘さんなんざ自分で帯解きながらついてくるっての。 もったいねェよなァ、って思うけど、ま、その辺はね。毎日毎日「好きです」って寄ってこられんのを、「俺はアンタを好きじゃねェ」って女掻き分けて歩くのも大変でしょうから。ぶっきら棒も目つき悪いのもいいですよ。気持ち判りますよ。 だからって街のオネーちゃんたちが寄ってこなくなったなんて、そんなの上っ面ですから。 一見さんや素人の娘さん程度ならあっさり引き下がってもくれるけどよ、いつかオメーと遊んでやろうって虎視眈々狙ってるうわばみみてェな姐さん方や、くそ、もっとたちの悪ィ男どもがいんの、コイツ、気付いてねェのかな。 マヨ飯がナンボのもんじゃい。 確かになんにでもマヨかけるってなァハタで見ててもちっとおかしいたァ思うよ。おまけにそれを悪気なく薦めてくるのとか、無理だろって、総悟なんか犬の餌って呼ぶけど、そんなもん犬に食わせてたら犬、死ぬからね。お前が食ってるの、つまりそーゆーたぐいですからねって、そりゃァ思うよ。けどさァ。 そのくらいで実際、人間の性欲が失せるかってーの。 そーゆーの、コイツ本気で気付いてねェんだろうなって思う。煙草やマヨがなんだっての。この男と褥でアンアンアンってなそこを十分乗り越える価値のある興味でしょォが。 トシの緩やかに開いた胸元に手をかけて、がばーってもう、いっそこうして開いとけよって脱がしてやりたくなる。 ちらっちらする肌色が悪い。キメの細かい白い肌は、見えるトコにゃ傷もなくって、乳首が見えるか見えないかって、まあ見えないんだけどそんなギリんトコまで衿開かれちゃ、普通はいっそ下品なモンなんだけど、なんか、トシの高潔なお顔との対比がさ。見ちゃダメとかえっちぃ事考えちゃダメって即、思う。つまりまァ、そんだけすぐ惑わされる。 首元にカッチリスカーフ締めて、隊服まとっている時ですら、トシのヤローは色っぽい。 刀挿して前を開いた上着の裾を流してってな腰は、別に女みてェだってんじゃねェけどほっそり着痩せして見えて、俺は何遍でもあの腰引き寄せて膝割って尻ィ撫でて腿の辺りでコイツのものを刺激しながら、後頭部を、逃げんなよって支えてそんで、キスをしたい。 そう。いつだってキスしたい。可愛いもん。 「キスしたいです」 布団を敷き終わり一服しながら、本日最終ニュースとばかり、テレビのチャンネルをザッピングしていたトシは、妙に力のこもった俺の言葉にちらりと流し目をくれた。 ふうう、と煙を吐ききると、トシはまだ長い煙草を灰皿の縁に置き、膝でにじり寄って俺の下唇を唇で軽く挟むみてェなキスを落とす。 うわ。可愛い。 さっきっからじわじわムラムラしてたのが素直なトシの行いに、メラメラくらいになっちゃって、俺は離れた途端のトシの唇に自分の唇を押し当ててついばみ、歯が緩んだ隙に舌を潜り込ませる。 |