愛があったらしたってイイじゃん・2

 煙草のにおいはもう慣れた。
 思う存分舌と舌とを絡ませて、気持ちいいって前面に押し出して好き好き好きって伝えあって、浮かれて頭がぼうっとしたままトシを布団に押し倒そうとして、とめられる。
「待て、って」
 ハァ、と赤い顔で口元を拭いながらトシが俺の肩を軽く抑えた。言葉がうまく出てこねェみてェで、「んぅ」って顎で指す方を向けば、ああ、そっか。煙草、火ィついたままだった。
 仕方がねェから体を離すと、トシはそっちに四つ這いで進んで長くなった灰を落とすと、また煙草を咥えてる。しょうがねェなって待ってると、トシは「悪ィ。もう一本いいかな」って、上目使いに目をくるんって、可愛いなァもう。そりゃ待つだろ。
 ほとんど吸わないまま灰にしたさっきの煙草の詫びに、気にすんなって微笑んで、そうだ。
 思い出して俺は立ち上がると、自分の部屋の押入れから箱を取り出して戻ってくる。
「あの、コレどう思う……?」
 様子をどきどき窺いながら箱を差し出すと、目顔で開けていいのか尋ねるトシに、俺は頷いた。
 咥え煙草でそんなデカイ訳でもない箱を開いた途端トシは、面白ェ、絵に描いたみてェに動きがとまった。
 ……。そんで、そのまま。
 やっべ、心臓痛ェ。面白くねェよ前言撤回、沈黙恐ェェ。
 深呼吸みてェに煙を大きく、吸っては吐いて、箱の中を覗いていたトシがこっちに目をくれた。
「何コレ」
「おもちゃ、です」
 ああっ。胃がキリキリするぅ! 見たままだってーの! 
 箱に鎮座するグロテスクなショッキングピンクの張り形。つまりまァ、イチモツをかたどった、いわゆる大人のおもちゃ。
「去年の忘年会のビンゴ大会で景品がそれだったの。こんなモンいらねーやって押入れン中入れたまんま忘れてたのが大掃除で出てきたんだもん。オメーにも見せてェなって! スッゲーよなって!」
 早口に畳みかける俺と対照的に、トシはゆったりと煙草の最後の煙を吸い込むと、火を消した。
 あ、煙草終わり? えーっと、……アレ? 
「どんなビンゴだよ」
 独り言みてェに呟いて、トシは新しく煙草に火をつける。
 いやいやいや。チェーンスモークになってますよとか、そんなん今更注意しねェけど、さっきお前、もう一本吸ったら俺といちゃいちゃって約束してくれてませんでしたか。さっきなんかいい感じだった気がしたけど、いい感じってどんな感じだったっけ……?
 相変わらず早鐘を打つ心臓に気付かねェふりする為に俺はそんな与太ばっかひたすら考えながら「とっつぁんです」と教えておいた。
「あァ?」
 ギロッってそんなおっかねェ顔で睨む事ァねーだろっての。




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