愛があったらしたってイイじゃん・3

「とっつぁんが景品だって持ち込んだヤツ。それ。ホンット、参加してたの飲み屋のおねーちゃんとヤローばっかだったけど、セクハラだよなァ」
 必死に言い訳を並べる俺にトシが冷ややかな目を向ける。
「それで、アンタがこんなモン貰ってどうすんだ」
 トシは箱の蓋を閉じ、俺の方へと畳の上を滑らせた。
「そーなんだよ。トシにこういうの使うなんてなァ言語道断そらイカン、ちゃあんとその辺わきまえて押入れ奥深くにしまってあった訳ですよ」
「それを今更出してきてどうすんだ。というより何でしまいこんでんだ。誰かにやるなりさっさと捨てるなりすりゃいいだろう」
「いや、トシにも見せてやろっかなって。すっげ、よくできてるもんだよねーって……」
 語尾をごにょごにょ、適当にごまかしながら言う俺に、トシは一瞥くれて「見た。スッゲーな」って感情のこもらない声で吐き捨てた。
「だからさ、まァ、折角ですから一度くらいは遊んでみるのもありかなーとか」
「帰れ」
 えっ。
 畳にのの字書くようにもじもじしてたトコに短いけどブリザードみてェな声がして、思わずびくって顔を上げたら、うわ、恐ェェ!
 ヤベー怒ってる。スゲー怒ってるぅ!
「かえれ、と、言われましても……」
 部屋戻れってかとひるんでいると、トシはスパーっと煙を吐いた。
「武州帰れって言ってんだ」
 武州までェェ!? 
 そんなの酷い、俺、局長なのに大人なのに家なき子かよォって、まァそんな事考えてたら、トシは細く長く煙を吐き出し、それから、ハァって溜息をついた。
「アンタさァ……」
 言葉の途中で口を開いては閉じ、乱暴にタバコを灰皿に押し潰したトシは顔を一瞬、くしゃっとしかめる。
「俺に、使いてェの?」
「や、そんなとんでもない。見て、スッゲーねって笑いたかっただけだし。別にそんな、大掃除でついでに捨てるとこだし!」
「捨てんの? へェ。じゃ、俺にちょうだいよ」
「え。じゃあ」
 使っちゃっていいんでしょうか、と俺が身を乗り出すと、トシはそりゃもう冷たい顔してこっちを見た。
「これがありゃ、アンタはもういらねェや」
「はー!?」
 こっちがびっくりしている間に、トシにえいって押されたと思えば、俺は部屋へと転がされる。ちょっとォ!
「近藤さんって名前にするし。コイツ。これからはコレで「ああん近藤さん、もうヤダー」って遊ぶ事にするから。アンタは精々聞き耳立ててりゃいいんだよっ」
 いやいやいや、何それ。おもちゃに名前付けてそれが俺の名前でお前が一人で遊んでるなんて、そんな、そんなん、堪らんでしょォが!
「トシ、あの……。したい事があるんだよー。頼むよーやらせてよー」
 ええい四の五の言ってる場合じゃねェ、参加させろォ!
「やかましい。すがり付いてくんじゃねェ!」
 小声で一喝したトシは、俺が必死で掴む腕の中から足を引き抜き、ふんっと派手な鼻息をさせて着物の衿を握って乱れを多少直す。
「とにかく没収。アンタは退場。本日は以上!」
「トッ、トシィィ」
 目の前でピシャッと仕切りの襖閉められて、トシのバーカ! も、しらねーよバカー! 
 そうやってブーブー内心拗ねちまったのも確かなんだけど、畜生、ホントに「近藤さん……っ」て口走ったらどうしようって暫く耳ィ澄ませて正座して、構えちまっただろ。
 そんで思わずでっかいくしゃみをしたら、「とっとと寝ろ!」って襖越しに怒鳴られた。
 おっかねェ!






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