愛があったらしたってイイじゃん・4 -土方- それから一週間、腹が立って近藤さんの手を振り払い続けた。 昼間はなんだかんだと二人にならねェように立ち回り、夜、報告の時に膝を詰められてはぺしんと顔面押さえてとっとと逃げ出す。 「俺には「近藤さん」がいるって言ってんだろっ」 思わせぶりに言ってやれば「俺が近藤さんだろっ」って、そりゃまァもっともな反論されて、ちょっと鼻水出しちまった。 「そーだな。アンタもおもちゃも、気持ちよくなる為の道具ってトコは一緒だよな」 ふーっと煙を長く吐き出し、横目で顔色を窺えば、近藤さんは腕を組み、唇を尖らせている。 「トシ。あれ、まさか使ってないでしょォね?」 その胡乱な目付きに、こっちが驚く。誰が使うかあんなモン! けど、素直にそう言っても近藤さんが喜ぶだけだろって、ぐっと堪えた。 「ああ。まだ一晩っきゃ使っちゃいねェけど。アンタのよりゃずっといい。大体、重いのがのしかかってくる事がねェってなァいいよなァ」 適当な俺の台詞に被せるみてェに近藤さんが言葉を続ける。 「嘘ですー。まだ使ってないの知ってますー。毎日ダテに聞き耳立ててませんよーっだ」 「ばっかじゃねーの!」 しゃあしゃあとした発言がおかしくて、とうとう俺は派手にぶはっと噴き出した。俺の笑いに気をよくしたらしい近藤さんが「ちょっとだけ」っていつの間にか傍にいて、あ、て気付いたらキスされていた。 ちゅ、ちゅく、と音を立てて唇をついばまれて、アレおっかしーな、俺怒ってた筈なんだけどって抵抗しようかと思えば、近藤さんの方から顔を離されそうになって、余計に腹が立った。 だから、逃げんなって首に手ェ回して散々に舌をあわせて口を吸ってやる。 久し振りのキスにぞくぞくする自分に気付かないフリで、近藤さんがのってくるまでって、まだ本気じゃないから俺は逃げられるって、もうちょっとだけ、もうちょっと、なんて考えていたら押し倒されてた。 「離、せ、よ」 自分でも情けねェとろけた声で何言ってんだって、思っちゃいるけどとりあえず形ばっかの言葉を口にしたら、近藤さんは俺の舌を、すくうみてェに一舐めしてから微笑んだ。 「トシ。デートしようぜ」 間近で囁かれた言葉の意味が咄嗟に判らず、ポカンとしていると、近藤さんは「あさってお前、休みだろ?」って。 「だから明日の夕方から夜、デート。映画行ってメシ食って……一汗流すってんで、どうよ」 「温泉でも行こうってか? ええ?」 つられて俺が軽口叩いてたら近藤さんは「行きてェよなァ」なんて呟きながら、俺の足に手を這わせて着物の裾を割ろうとする。 うわヤベェ、流されそう。 「悪ィな。俺にゃァ俺の思うがままの「近藤さん」がいるもんでよ」 両頬をちょいと強めに両手で音をさせて包んで言うと、近藤さんはきょとんと目を丸くした。 その隙にって腕の中からごそごそ懸命に逃げ出せば、近藤さんは仰向けに寝転がって畳に大の字になる。 「……明日はお前、逃げんなよ」 言ってじろっとこっちに目だけを向けた近藤さんを見下ろしながら、俺は隣の自室へ戻った。 ふーん。いいけどね。俺ァまだ怒ってるしね。だから別にいいけど、なんだよ。 アンタ、今日は追っかけてこねェんだ? 大体元はアンタがあんなモン持ち込むからだ、と、俺は布団敷くのに開けた押入れの奥にしまい込んだ例の箱を見ねェようにしながら眠りについた。 |