青空の人・7 ミツバが訊ねてきたのはその日の暮れ、沖田が風呂に入っている間の事だった。 「そーちゃんが今晩泊まるって言うから」 おむすびいっぱい作ってきたんですよと差し入れを渡すと、沖田が湯から上がってくるのを待つまでもない、もう暗いからこのまま帰ると笑う。 「一日会わないだけで心配になって駆けつけたみたいに思われちゃ、そーちゃんにまた子供扱いするなって怒られちゃうわ」 何か思い出したような微笑を浮かべ「ついでだから丁度いいわ、きた事も内緒にしてて下さい」と自身が子供のような事を言い、楽しそうに風呂敷を手早く外すと胸元に畳み込み、ミツバが玄関を出た。 「トシ」 行ってやれと近藤が目配せをする。 土方は握り飯にちらりと未練の視線を投げかけたが、近藤の有無を言わせぬ顔色に、大人しく草鞋をつっかけその後を追った。 「辛ッ。何これェェェ」 「喉がッ喉が焼けるぅぅぅ」 先に握り飯に手を出した者から順に、見た目には判らなかった、おむすび内部に仕込まれた唐辛子と七味に倒れる中、湯から戻った沖田は大の男がバタバタともんどり打つ惨状に、自分のいない間に何みんなで遊んでやがんでィ、と唇を尖らせる。 「俺はあの人の味覚知ってたんで警戒してました!」 何故か勝ち誇ったようにガッツポーズで宣言する近藤に「姉上ですかィ?」と沖田が尋ね、きょろきょろと姿を探した。 「おう、おにぎりくれて帰ったよ。一緒にってかいっそ全部食べてって欲しかったよなァ!」 半分に割った握り飯から慎重に箸で唐辛子を取り出し、恐る恐る米粒を齧りながら近藤は沖田にも握り飯を勧める。 「俺ァ辛いモンは医者に止められてるって事になってますんで、そいつァちょっと」 そうでも言わなきゃ家のメシが全部姉上味になっちまいまさァ、と苦笑を浮かべ、沖田が続けた。 「ちなみに握り飯くらいの事なら、唐辛子抜いて味噌汁にぶち込むとなんとか食えやすぜィ」 「凄いな総悟! 生活の知恵か!」 大喜びする近藤に、そんな大層なモンでもねェだろィ、と思いつつ、沖田は「アイツは?」と見えない男の姿を探す。 「ん。トシは、ミツバさん送って行ったよ」 その言葉に沖田は席を暖める間もなくスッと立ち上がった。あの男は気に食わねェ。二人きりにさせたかねェ。 「まだちっと辛いけど、こりゃ体、温まっていいかもなァ」 暢気にそんな事を言っている、近藤までがちょっと憎たらしくなった。 「……言っときやすが唐辛子、素手で触った人ァ確実に小便の時腫れやすぜィ。十分注意する事でさァ」 軽く瞳孔の開いた目で捨て台詞のように言うと、沖田は提灯を引っ掴み外へ飛び出す。 「嘘ォォ。てか総悟! ちゃんと髪乾かしたのかよって!」 声だけで追いながら、ウチの奴ァみんなもう、まったく素直で仕方ねェなと、近藤は片眉を上げ小さく笑った。 |