罪を数え 量り 罰を与える・3


 真選組は腕力だけを頼りに勢力拡大を図ってきたにしては、中々よくできていた。
 内部の統率に関しては、局長近藤に絶対的服従をしている、土方と沖田に負うところが多い。土方の策略と怒声に、沖田の容赦ない実力行使。近藤自身はふらふらと、気さくに隊士達の間を賑やかしている。
 局長がそんな事では示しがつかないだろうと踏んでいたが、彼はお構いなしに誰彼なく声をかける。どこまで計算してできた図式か不思議だが、それなりに見事だ。
 土方や沖田に咎められて落ち込んだ隊士を、近藤が慰める。そうなれば隊士達は近藤を慕う寸法だ。
 そんな風に寝食を共にすれば、擬似家族的繋がりができ、連携も進む。ぬるま湯的に馴れ合いが生まれぐずぐずになる嫌いはあるが、そこを土方がうまく引き締めている。
 意外だったのは近藤がそれなりに勉強家だった事だ。けれど所詮は付け焼刃、幕府との折衝には骨を折っていた。
 近藤はよくとぼけた事を口にするが、芯からの馬鹿ではなかった。彼のいいところは、素直な事だ。簡単な質問に答えてやれば、以降目を輝かせて僕に何事も尋ねてくる。多少面倒で、やっかいといえばやっかいだ。それでも少しは自分で調べろと言えないのは、彼は彼なりに考えてくるからだ。そして、気の毒な事にピントがずれている。
 愉快ではある。近藤の穴だらけの案件に僕のアイデアを埋めていく。いっそ初めから軌道修正をする。狙いを付ける人物を選ぶ。僕の理論が上層に伝わる。僕の名が少しずつ幕府に浸透し、認められる。
 僕はやがて、異例の早さで真選組の政治顧問として「参謀」という肩書きを手に入れた。元より請われて参加のデキレースだ。それでもこのスピードは尋常じゃない。僕という人間がいかに優れた比類なき男であるかの証明だ。撲は他人とは違う。
 武家の出である事、免許皆伝の剣の腕前、学問所での評価、すべてが僕にプラスに働いた。容易い事だ。人というものは努力の方向さえ間違えなければなりたいものになれる。その一例だ。
 近藤は、事ある毎に僕を褒めた。二人の時、大勢の前で、頓着せずに「先生のおかげだ」と感歎を漏らした。
 僕は近藤を既に、実直だが愚鈍と見切っていた。それでも部下の手柄を独り占めする男ではなかった。リーダーとしては優れた人物かもしれない。人間何かしらの取り柄があるものだ。
 傀儡の王。それがこの間に僕が近藤に振り分けた役割だ。今後とも是非僕の役に立っていただこう。
 土方は相変わらず僕とはあまり話さない。近藤を挟み、僕と対なす存在という事で気にはなるが、仕事以外での会話は殆どなかった。それでも今は構わない。いずれ彼の方から、近藤のように「先生」と「助けてくれ」と縋り付いてくるだろう。
 この組織は、面白い。
 僕だってその頃はそう思っていた。





続く 戻る 小説メニューへ戻る